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意義ある“興行失敗作”。キャメロンが『アビス』(深淵)で見たものとは

(c)Photofest / Getty Images

意義ある“興行失敗作”。キャメロンが『アビス』(深淵)で見たものとは

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海洋アクション映画初の本格水中撮影に挑む



 クストーの海洋ドキュメンタリーを愛し、十代からスキューバダイビングに親しんできたキャメロンは、『アビス』を撮るにあたり、従来の海洋アクション映画にはないリアルな水中撮影シーンを実現したいと考える。それまでの水中シーンは、スタジオで「ドライ・フォー・ウェット」と呼ばれる手法で撮影されていた。これは、スモークとスローモーション撮影を組み合わせて、“乾いた”スタジオで水中のように見える環境を作り出す方式だった。


 今までにないリアルな水中シーンを撮るために、キャメロンが決断したのは、多くのシーンを実際に水中で撮影すること――いわば「ウェット・フォー・ウェット」だ。水中撮影監督には、『ザ・ディープ』(77)で素晴らしい水中シーンを撮ったアル・ギディングスを起用。元水泳選手、元水中銃漁師という異色の経歴を持ち、その後は水中カメラマンとして自作の撮影機材を駆使し自然ドキュメンタリーを何本も撮ってきたギディングスは、技術面と運動面の能力を併せ持つうってつけの人物だった。


 物語の舞台となる海底油田掘削基地「ディープコア」は、巨大な水槽タンクの中に実物大のセットを建設することが構想された。条件に合うタンクは世界中を探してもなかなか見つからなかったが、あるプロデューサーが映画撮影所に転用するため買い取った、サウスカロライナ州の建設中止されたチェロキー原子力発電所が候補に挙がる。現地を見学したキャメロンとギディングスは、原子炉格納容器として設計された直径約73メートルのすり鉢状の構造物に、追加工事を行って水槽タンクを建設することを決めた。



『アビス』(c)Photofest / Getty Images


 潜水服を着て演技をする俳優たちの表情をとらえるため、正面だけでなく横からも顔が見える広い透明フェイスプレートをはめ込んだ潜水ヘルメットが新たに設計された。通常は口にくわえるレギュレーター(酸素を送り込む装置)を、ヘルメット側面に組み込んで内部全体に酸素を供給し、俳優が自由に台詞を言えるようにした。


 ほかにも、モーション・コントロール・カメラ、リモート操作の水中艇、リモート操作の水中ビデオカメラなど、さまざまな水中エンジニアリングが本作のために初めて考案された。


 ディープコアのクルーに配役された俳優たちも、撮影が始まる前に招集され、チームとしての結束力向上も兼ねてダイビングの訓練を受けている。最後に配役が決まったハリスはこの訓練に参加できなかったが、撮影地にほど近い湖でダイビングのライセンスを取得し、撮影が終わるころにはプロ顔負けの腕前になっていたという。



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