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意義ある“興行失敗作”。キャメロンが『アビス』(深淵)で見たものとは

(c)Photofest / Getty Images

意義ある“興行失敗作”。キャメロンが『アビス』(深淵)で見たものとは

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キャメロンも溺れかけた過酷な撮影



 『アビス』の撮影時間は1日平均18時間にも及んだ。水中での撮影はたいてい水深4.5メートル、2気圧のところで行われるので、キャメロンや出演者が潜水服を着用したまま酸素補給できる水中ステーションを設け、時間を節約した。長期に及ぶ潜水で、気圧差による身体への影響を軽減するため、水深3メートルの水中に少なくとも1時間とどまる必要があった。時間を無駄にしたくないキャメロンは、水中のロープにつかまりながら現像されてきた撮影素材をチェックできる環境を整える。ヘルメットの重みで首が痛くなると逆さまにつかまり、モニターをひっくり返してもらってチェックを続けた。


 試練の多い撮影現場をものともしないキャメロンだったが、過酷な環境に参ってしまうキャストもいた。ハリスは深淵に下降していくシーンで、液体で一杯のヘルメットの中で息を止めて演技し、限界になると「酸欠」のジェスチャーでサポートのダイバーに合図し、レギュレーターをくわえさせてもらう段取りだった。ところがあるテイクで、「酸欠」の合図を送っても、ダイバーがケーブルに引っかかって駆けつけられない。別のダイバーが近づいてヘルメットを開けレギュレーターをくわえさせたが、マウスピースが逆だったため、ハリスは水を大量に飲み込んでしまった。「俺はここで死ぬんだな」と覚悟したハリスだったが、撮影監督のギディングスがとっさに割り込んで自分のレギュレーターをくわえさせることで難を逃れた。



『アビス』(c)Photofest / Getty Images


 バドと別居中の妻で、ディープコアの設計者でもあるリンジーを演じたメアリー・エリザベス・マストラントニオにとっても、撮影は試練の連続だった。とりわけ厳しかったのが、窒息して仮死状態になったリンジーをバドが必死に蘇生しようとする場面。このシーンで彼女はびっしょり濡れ、シャツは蘇生処置のため引き裂かれて胸があらわになり、目薬を使って瞳孔を大きく広げ、まばたきひとつせずに「死んだ状態」を熱演していた。


 テイク2で事件が起きる。ハリスとマストラントニオ、そして2人を見守るクルー役の俳優たちが最高の演技を披露し、今にもリンジーが蘇生するかという瞬間、あろうことかフィルムが尽きてしまったのだ。せっかくのテイクが無駄になったことにマストラントニオはぶち切れ、「私たちは動物じゃないのよ!」と叫んで現場を立ち去り、数時間戻らなかったという。


 キャメロン自身も撮影中に溺れかけた。潜水して作業する際、満タンの酸素で1時間15分もつことから、1時間たった時点でアシスタントに警告してもらうことになっていた。ところが、水深約10メートルのタンクの底で打ち合わせしているとき、アシスタントが警告を忘れたせいで酸素が尽きてしまったのだ。周囲のダイバーに気づいてもらえないキャメロンは、高価な電子機器の詰まったヘルメットを脱ぎ捨て、浮力ベストも外し、肺の空気をゆっくり吐き出しながら浮上を始めた。ようやく駆けつけたダイバーがレギュレーターをあてがったが、なんとこれが壊れていて、キャメロンは水を吸い込んでしまう。パニックなったと勘違いして抑えつけにかかるダイバーを殴って振りほどき、ようやく水面にたどり着くことができたのだった。



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