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単なるパニックホラーにとどまらない『ジョーズ』が描く巧みな人間ドラマ※注!ネタバレ含みます。
観客の想像力を刺激し、緊張を途切れさせない手法
『ジョーズ』の魅力を挙げだすとキリがない。初めて観る人にとってはまず迫り来るサメの恐怖が何よりも先行するだろうが、一方、これが何度目かの鑑賞になると視点も少し変わってくる。
例えば、筆者にとってたまらなく魅力的なのは「肝心の怪物サメが、開始60分を過ぎた頃まで姿を現さない」という構成である。逆に言うと、作り手たちは本編の中間地点までサメの姿なしの状態で緊張感をキープしていることになる。ここにこそ本作の醍醐味が詰まっているように思えてならない。
『ジョーズ』(C)1975 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
その点に関しては、当然ながらジョン・ウィリアムズ作曲のメインテーマの功績は大きい。海面を忍び寄る映像と共にあの2音の連なりが危険信号のように発せられることにより、その後の我々は2音の囁きが耳に触れるたび、そして不意にカメラが海面を映し出すたびに「そこに何かいる!?」と身構えるようになる。何しろここは海辺の町。サメの潜み得る場所は広大だ。恐怖はいたるところに偏在する。
スピルバーグがこうして観客の想像力のスイッチに手をかけるだけで、あとは無尽蔵の恐怖がどんどん暴走を始める。どんなに精巧なアニマトロニクスを駆使するよりも、観客の想像力を活用した方がよっぽどリアルな恐怖を作り上げることができるのだと、未来の巨匠はしっかりと熟知していたのである。