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単なるパニックホラーにとどまらない『ジョーズ』が描く巧みな人間ドラマ※注!ネタバレ含みます。
人間ドラマにこそ大きな魅力が
そして本作が観客を飽きさせないもう一つの要因が「人間ドラマ」だ。残忍な殺人ザメと比較するとついつい影が薄くなりがちな登場人物たち。だが、注意して見ていくとここにも魅力が詰まっていることに気づかされる。
実は本作、もともとは原作に近い形で脚色化されていたらしいのだが、スピルバーグはそれを不出来だと一蹴し「メロドラマ風の恋愛劇」をバッサリとカット。代わりに3人の男たちを際立たせて、彼らがそれぞれの宿命の中でサメと対峙するシンプルな骨格を打ち出した。
そのストーリー部分に注目すると、前半には、市長の「この町はサマーシーズンの海水浴客で持っているようなもの。遊泳禁止となってはかなわない」というセリフが象徴するような、利益優先型社会へのアンチテーゼが垣間見られる。しかしここはスピルバーグの巧みなバランス感覚というべきか、本作は決して説教臭くはならないのだ。
『ジョーズ』(C)1975 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
その上、市長の決断力のなさに鉄槌を下すのではなく、「逃げ惑う人々の中に、私の子供たちもいた」と力なく語らせることで、彼自身もきちんと等身大の人間として回収される。単なるステレオタイプ的な描き方に終始するのではなく、その向こう側の景色にまで連れて行ってくれるところに、我々はハッと心を掴まれるのだ。