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単なるパニックホラーにとどまらない『ジョーズ』が描く巧みな人間ドラマ※注!ネタバレ含みます。
海に触れる時、ブロディのドラマも完結する
当然ながら観客としての最大のカタルシスは、ラストの大爆発シーンにあるのだが、ことブロディという人物に焦点を当てると見つめるべきポイントもやや変わってくる。
面白いことに他の面々が死闘を繰り広げる中でも、ブロディは細かな作業に徹するばかりでなかなか率先して戦わない。なおかつ水に触れようともしない。そして最後の最後で、操縦室が浸水し、さらにはサメが寸前まで襲い来る段になって船の外壁が崩れさり、彼はここでずぶ濡れになりながら海面へ向けて投げ出される。その瞬間、彼が抱えていたトラウマが克服されるのと同時に、スクリーンにはついに、ライフル銃を構えて撃鉄を起こす勇ましい姿が焼き付けられることになるのだ。
『ジョーズ』(C)1975 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
ここで彼は何かに立ち向かい、戦い、そして乗り越える。一人の男が「過去にケリをつける」描写がこのワンシーンには存分に詰め込まれているわけだ。
このように本作は想像を絶する生物を最新技術によって描くだけでなく、登場人物が辿ってきたそれぞれのドラマをも精神的、状況的にきちんと完結させる。それも決してこれ見よがしではなく、あくまでサラリと盛り込むのだ。世間ではパニック映画にストーリーなんて不要と言われながらも、決して細部をなおざりにしない。この巧みなニュアンスとタッチもまた、スピルバーグを未来の巨匠へ押し上げた要因なのではないか。これから何度目かの鑑賞に臨まれる方も是非その点に注目して楽しんでいただきたい。
<参考文献>
「スティーブン・スピルバーグ 人生の果実」(アンドリュー・ユール/高橋千尋訳/プロデュース・センター出版局/1999)
「はじめて書かれたスピルバーグの秘密」(フランク・サネッロ/中俣真知子訳/学習研究社/1996)
「アクターズ・スタジオ・インタビュー 名司会者が迫る映画人の素顔」(ジェイムズ・リプトン/酒井洋子訳/早川書房/2010)
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『ジョーズ』ユニバーサル思い出の復刻版
Blu-ray:4,200円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年5月の情報です。
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