多くの作品に受け継がれたカーペンターの恐怖演出
冷徹なおぞましさを最大限にスクリーンに刻み付けた、カーペンターの演出も光る。冒頭のマイケルの視点からとらえた映像は、薄氷を踏むようなスリルを感じさせるだけでなく、後の惨劇を予感させるに十分。この後も“来るぞ、来るぞ”と思わせつつの惨殺までのタメが効いており、ショッキングな描写は最小限でもホラー映画の最大限の効果を引き出した。
これは町のカーニバルでお化け屋敷などのアトラクションに入ったときに、彼が気づいたことに基づいている。「2度3度と通ううちに、面白いのはビックリする瞬間ではなくて、その瞬間を待ちながら廊下を進んでいるときだと気づいた」とはカーペンターの弁だ。
『ハロウィン』(c) Getty Images
そしてカーペンター自身が手がけた、今でいうエレクトロ・ミュージックの、有名なテーマ曲の効果も絶大だ。変拍子による高音の反復旋律という点では、『エクソシスト』の「チューブラー・ベルズ」にも匹敵する不気味な音楽。「低予算映画だったから、音楽は3日で作らなければならなかった。それであの曲を作ったんだが、反復的な曲なのでいつまでも演奏することができた。観客はあれを聴いたらイライラする。脅迫的な電子音を使ったから、なおさらだ」と、カーペンターは語っているが、これはもう天才的なひらめきと言うべきだろう。
視覚も聴覚も刺激して恐怖を盛り立てるカーペンター演出の妙。かくして『ハロウィン』はマスターピースとなり、後の多くの映画に影響をあたえてきた。あまたのホラー映画はもちろん、コーエン兄弟の『ブラッドシンプル』(84)、ジェームズ・キャメロンの『ターミネーター2』(91)も本作の影響下にあると言っても過言ではない。カーペンターのスピリットは脈々と受け継がれているのだ。
*文中のジョン・カーペンターの発言は『恐怖の詩学 ジョン・カーペンター』(フィルムアート社)からの引用
文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
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