2019.07.26
エディ・マーフィ伝説誕生
とはいえ、やはり本作で一番輝いたのは主演のエディ・マーフィだ。彼にとって初主演作となる本作。『48時間』(82)や『大逆転』(83)の興行成績での成功を収め、満を持しての初主演だった。そして初主演ながら、他の新人ハリウッドスターとは一線を画す契約をしている。個人名でクレジットこそされていないが、エディ・マーフィは「エディ・マーフィ・プロダクション」名義で、アソシエイトプロデューサーの役割も担っていたのだ。初主演でそこまで作品に口を出せるハリウッドスターはほとんどいない。エディ・マーフィの意識の高さが、この作品をより優れたものにさせたとも言える。
また、デトロイト署の上司トッド警部とのやりとりでは、エディ・マーフィのこだわりを感じる。「お尻」に関する2人の会話は、2人の間でしか通用しない暗号みたいで、普通に罵り合っているように聞こえるが、愛情と尊敬も感じられる、粋で笑える会話になっている。そのトッド警部を演じたギルバート・R・ヒルは、実は本物のデトロイト刑事である。この映画での成功をきっかけに俳優に進むこともできたが、あくまでもこのシリーズだけに登場し、アクセルとの特別な関係性を築いている。
『ビバリーヒルズ・コップ』予告
マイケル・ジャクソンのジャケットにシンセサイザー、ファラ・フォーセットみたいなサーファーカットにド派手なアクション…。この映画には80年代の懐かしさと面白さが全て詰まっている。ファッションや音楽には時代を感じるけれど、エディ・マーフィの笑いそのものには、全く時代を感じない。今見直しても当時と同じように笑ってしまうのだ。80年代にエディ・マーフィは初主演作で天下を取った。その証が今も色褪せず、『ビバリーヒルズ・コップ』にハッキリと残されている。
文: 杏レラト<あんずれらと>
雑誌「映画秘宝」(洋泉社)を中心に執筆。著書『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)が発売中。
(c)Photofest / Getty Images