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『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』子役の扱い方における岩井俊二の徹底した戦略とは

(c)Rockwell Eyes Inc.

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』子役の扱い方における岩井俊二の徹底した戦略とは

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子どもの映画、素人を使うか?子役を使うか?



 話を『打ち上げ花火』の子どもたちの演技に戻すと、映画やドラマに登場する子どもは2つに大別される。子役と素人である。劇団に所属して演技レッスンを積んだプロの子どもと、演技については何も知らない素人の子ども。どちらも一長一短の面がある。プロの子役なら、監督の求める演技を的確に理解して喜怒哀楽を瞬時に表現できるだろうが、一方で大人の顔色を窺っているようなところがあり、子どもが子どもを演じているように見えることがある。逆に素人の場合は、素朴な魅力が出ることがあるが、素質を持つ子どもを見つけられるかどうかにかかっている。素人だから誰もが魅力的に映るわけではない。


 さて、『打ち上げ花火』に登場する子どもたちは、子役なのか?素人なのか? というと、岩井俊二が選択したのは、子役――それも、プロ中のプロの子役だった。曰く、「あれで使った子役って、みな『劇団ひまわり』とかの児童劇団からナンバーワンと言われてる奴を集めてトレーニングしたんですよ。そのほうがやっぱり早い。(略)『打ち上げ花火』の勝因ってそこなんです。オーディションで集まってくるナチュラル系の普通の子たちはやっぱり下手だから、勝負にならない。生え抜きを鍛えたほうが絶対早いって、やっていくうちに分かってきた。それは、最初に『やっぱり児童劇団ってクサイよな』っていう先入観を持っていなかったからだと思うんです。」(『マジック・ランチャー』庵野秀明・岩井俊二 著/デジタルハリウッド出版局)


 この時代の映画に登場する子どもといえば、相米慎二の『お引越し』(93年)、『夏の庭』(94年)にしてもオーディションで演技未経験の子どもを抜擢し、それが子役を最も効果的に活用できると信じられていた。その時代に、あえて劇団出身の最も上手い子役を使えば、ナチュラルな芝居と指示すれば出来るだけのスキルを持っているに違いないと踏んだ岩井俊二の逆転の発想力が、本作が突出した作品にさせた理由の一つだろう。


 そして、もうひとつ、子どもを描くにあたって、岩井俊二が用意した秘策が〈早口〉だった。これもまた、子どもたちを観察した成果である。本作の子どもたちの喋り方は、他のドラマに比べても早い。時には語尾などが聞き取れないこともあるが、感情は伝わってくる。これは現実の子どもの会話が、かなりの早口で交わされていることに注目したものだ。岩井によると、「『打ち上げ花火』のときにどうしようもなく実感したのは、子どもってすべての行動の言語、会話が早いことなんですね。本人たちが芝居を意識すると、急にゆっくりになっちゃうんだけど、それ以外の彼らの時間軸ってすごく早い」(前掲書)


 実際、本作の子どもたちの台詞は、12歳とは思えないほど大人びた口調かつ、饒舌に早口で喋り、言い終わらないうちに動きだしてしまう。こうしたリズムを再現するために台詞も通常の作品よりも多く用意され、子役的な感情表現など付け入る隙を与えない岩井俊二の子役コントロール術が発揮された。傑作が生まれるのは、作り手の才能によるものも大きいが、それを具体化させるための技術が不可欠でもあることを実感させる。


 岩井俊二が映画監督デビューした1995年は、是枝裕和らも監督デビューした年だが、いずれもテレビ、ドキュメンタリー、ミュージックビデオの現場で技術を磨いてから映画へと移っていった。アニメ版『打ち上げ花火』で脚本を書いた大根仁もテレビでの長い蓄積が、今映画で開花している。

 最後に、ちょっとした余談を。『トラッシュバスケット・シアター』(岩井俊二・著/角川文庫)によると、本作の撮影に入る前に、岩井俊二は出演者の子どもたちに自分なら仲間を取るか、ヒロインのなずなを取るか訊ねたという。彼らの答えは――「絶対仲間だよ。女なんかと花火なんか見に行けっかよー!」だったという。



文: モルモット吉田

1978年生。映画評論家。別名義に吉田伊知郎。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか



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作品情報を見る




「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」実写豪華版Blu-ray BOX

監督:岩井俊二 

主演:山崎裕太・奥菜恵

品番:NNB-0001

発売・販売元:ノーマンズ・ノーズ

価格¥7,400(税別)

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