ロマコメを「美男美女」という先入観から解き放つ!
『25年目のキス』が、ロマコメというジャンルにいかに革命を起こしたか? 最大のものが“ルッキズム”からの解放である。本作が画期的だったのは、「サエない女の子が恋をしてキレイになる」というロマコメの王道パターンを踏襲しているように見せかけて、実質的に“美男美女”に占拠されてきた “ラブコメ”の構造をブッ壊しにかかったこと。
「そもそもドリュー・バリモアは子役時代から超可愛かった人気スターではないですか?」という多くの人が抱くであろう反論に反論すると、ドリューを苦しめたコンプレックスのひとつが「太っている自分」であり、不安定な家庭環境や10代になる前からのアルコール中毒、ドラッグの乱用も手伝って自己肯定感は最低レベルに堕ちていた。キャリアも低迷し暗黒期に突入したが、「シンデレラ」の物語を翻案した『エバー・アフター』(98)に主演したことで、ようやく自分自身を認め、救済することができたと語っている。
『エバー・アフター』予告
その結果なのかどうかはわからないが、ドリューは本作でも、その前年に主演したロマコメの『ウェディング・シンガー』(98)でも、ハリウッドヒロイン基準では「ぽっちゃり体型」のまま主演を務めている。「ハリウッド基準でぽっちゃり」という表現が中傷ではなく事実であった証拠として、両二作のポスターと本編を見較べてもらいたい。どちらの作品もあからさまにポスター用に修正が施され、ドリューを小柄で細身の女性に見せようとしている。未だに似たようなケースは多く見かけるが、「実際の彼女の姿ではセールスできません」と言っているようなものだ。
ドリューは、前述の『エバー・アフター』を自らの出演作で一番のお気に入りに挙げているのだが、つまりこの時期のドリューは、理想の痩身美女ではない自分自身に抗うことをやめた。そして、自分を偽らなくても「魅力的なヒロインになれる」ことを自覚的に証明してみせた時期だったと言える。