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コンプトンへようこそ!『ストレイト・アウタ・コンプトン』が鳴らす警告とは

(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

コンプトンへようこそ!『ストレイト・アウタ・コンプトン』が鳴らす警告とは


コンプトンとN.W.Aの歴史



 本作の冒頭では、戦車がいきなりコンプトンにやってくる。これは実話だ。N.W.A結成当時は、クラックという新種の麻薬が蔓延しており、その対策にロサンゼルス市警のダリル・ゲイツ署長は、麻薬との戦いを「戦争」に例え、「クラッシュ(CRASH)/ハマー作戦」と題して、コンプトンなどの黒人居住地区に戦車を送り込んだのだ。


 クラッシュそのものについては、デニス・ホッパー監督作『カラーズ 天使の消えた街』(88)で覚えている人も多いだろう。麻薬で一番の利益を得ている人々は、コンプトンには住んでいない。だが、警察官たちは執拗に住民を監視し始め、しょっちゅう街中で呼び止められイザコザになる。本作でもその場面は何度も描かれているので、N.W.Aがどのようにして警察と対立していき、「Fuck tha Police」という論争が起きた曲を作るに至ったのか、われわれにも容易に理解できることだろう。


 そして、ロサンゼルス市警によって暴行を受けたロドニー・キングを巡る裁判で、ロサンゼルスを震撼させた大暴動が1992年に起きた。警察の無罪判決に納得いかない市民たちは「Fuck tha Police」を歌い、壊された店先にその言葉が殴り書きされた。彼らの曲がいかにロサンゼルス市民と寄り添っていたかがよく分かる。



(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.


 N.W.Aは、高い確率で「ギャングスター・ラップ」と紹介される。日本でもそうだったのを良く覚えている。彼らは危険でハードコア……、そんな雰囲気を醸し出していた。


 しかし本作を見ていて気付くのは、麻薬売人をしていたイージー・E(ジェイソン・ミッチェル)以外は割りと堅気の人々ということだ。リリックを書いているアイス・キューブ(オシェア・ジャクソン・Jr.)は、ちゃんと学校に通って、ノートに一生懸命リリックを書きためている努力家だ。そしてビート作りを担当するドクター・ドレ(コーリー・ホーキンズ)も、不良性よりも音楽が本当に好きな一面が明らかになっている。彼らがいかに音楽に対して情熱を持っていたのかが良く分かったし、何よりも音楽を作っている彼らの楽しそうなシーンでは、音楽自伝映画らしく胸が躍る。そして、マネージメントを担当するイージー・Eは、麻薬売人としてストリートで培った商才を活かした。「ギャングスター」というイメージを逆手にとり、社会にショックを与えることで、人々の目を引きつけたのだ。


 彼らが社会に与えたショックは大きく、それでFBIから目を付けられてしまう。しかし彼らはそれらを広告に利用してしまう逞しさを持っていた。N.W.Aが出てきたころのラップ界は、ニューヨーク出身が台頭しており、ロサンゼルス出身はまだこれからの時代で、下に見られていた。そこでイージー・Eは、ジェリー・ヘラー(ポール・ジアマッティ)という音楽ビジネスに長く携わった男を味方につけた。しかし、それが原因で、後にメンバー間の信頼関係に亀裂が生じてしまう。



(C) 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.


 そんなメンバー間の確執も包み隠すことなく詳細に描けたのは、メンバーのドクター・ドレとアイス・キューブが製作に加わったことが非常に大きい。終盤で、イージー・Eとアイス・キューブが再会するシーンとドクター・ドレとイージー・Eが再結成の話を電話するシーンは、とてもエモーショナルで、観客の涙を誘う。しかし現実では、アイス・キューブとドクター・ドレの意見が強いことで、上映後にジェリー・ヘラー本人から裁判を起こされる。ジェリー・ヘラーだけでなく、この映画を相手に裁判を起こした人は多く、撮影中も撮影後もトラブルが多かった。


 本作に登場するデス・ロウ・レコード設立者シュグ・ナイトは、撮影の邪魔をするために交通事故を起こして1人死亡させ、現在刑務所にいる。そして、この映画に寄せられた批判の一つが、女性の描き方だ。ドクター・ドレの過去の女性への暴力が明らかになり、謝罪声明を出すに至った。好評を受けていた本作だったが、それら一連のトラブルもあり、オスカー戦線から離脱したと言われている。



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