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『太陽の帝国』スティーヴン・スピルバーグを「社会派」に躍進させた記念碑的作品
「社会派スピルバーグ」を形作った秀作
先の項で述べた通りだが、スピルバーグといえば『ジュラシック・パーク』(93)や『宇宙戦争』(05)、『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(16)などの直球な娯楽作を得意とするが、他方では『リンカーン』(12)などの社会派作品を展開させ、“娯楽”と“社会派”を往来している。スピルバーグの社会派としての作品には第二次世界大戦を描くものが多く、監督作品には『シンドラーのリスト』(93)『プライベート・ライアン』(98)、製作作品には『父親たちの星条旗』(06)『硫黄島からの手紙』(06)、テレビシリーズの製作総指揮には「バンド・オブ・ブラザース」(01)「ザ・パシフィック」(10)がある。
スピルバーグが携わったこれらの第二次大戦作品の基礎となった作品こそが、本作『太陽の帝国』なのである。日中戦争による日本軍の中国占領と、太平洋戦争の開戦による租界侵攻、そして租界市民の強制収容所への移送。映画では戦争の始まりから日本の降伏まで、長きにわたる太平洋戦争を市民の目から映している。この数年におよぶ世界規模の戦争を駆けた、ひとりの少年を軸とする『太陽の帝国』は、スピルバーグのほかの戦争映画と比較しても非常に反戦的な意味合いの強い映画だ。
『太陽の帝国』(c) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
『シンドラーのリスト』では戦争の“理不尽さ”を描き、『プライベート・ライアン』では戦争の“残虐性”を冒頭から味わわせてきたが、『太陽の帝国』では戦勝国、敗戦国という単なる価値体系ではなく、戦争がいかに人々の心を壊すのか、まして成長過程の少年ではどうなってしまうのか、といったように、戦争による“市井への被害”を厭戦色強めに描き切っている。しかし、どんなに戦争が少年を苦しめたとしても、「飛ぶこと」へのあこがれまでは奪うことができなかった。そういう意味で『太陽の帝国』は、「戦争が奪えなかったもの」を同時に伝えている。
それは『シンドラーのリスト』でユダヤ人を救ったシンドラーの“慈善心”だってそうだし、『プライベート・ライアン』における兵士たちの揺るぎない“信念”だって、それは「戦争が奪えなかったもの」のはずだ。かように、スピルバーグのフィルモグラフィの中でも異彩を放つこの作品は、現在の社会派スピルバーグを形作る、基盤として機能しているわけだ。
参考:映画『太陽の帝国』(1987)劇場用プログラム
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。
『太陽の帝国』
ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
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