2019.09.20
フランスからやってきた新しい波「ヌーベルヴァーグ」
本作は、1950年代末のフランス映画界で起った”ヌーベルヴァーグ”の立役者、フランソワ・トリュフォーの初長編映画である。初長編映画ながら、トリュフォーはカンヌ国際映画祭にて監督賞に輝いた。一方、大賞であるパルム・ドールに輝いたのは、『黒いオルフェ』(59)。フランス出身のマルセル・カミュ監督による、ブラジルが舞台のギリシャ神話を元にした作品である。アカデミー外国語映画賞まで受賞している名作だが、ヌーベルヴァーグとは一線を画す。
そして、日本の広島を舞台にしたアラン・レネ監督の『二十四時間の情事』(59)も同じ年に公開されている。ヌーベルヴァーグは、カイエ派(右岸派)・左岸派の2派に分かれ、トリュフォーがカイエ派の代表ならば、レネは左岸派である。そして、次の年にはカイエ派のジャン=リュック・ゴダールにより『勝手にしやがれ』(60)というヌーベルヴァーグの代表作が誕生し、トリュフォーも原案で関わっている。
また、『大人は判ってくれない』を語る上で外せないのが、監督フランソワ・トリュフォーの半自伝的作品であること。そして、主人公アントワーヌ・ドワネルを描いた作品を、トリュフォーが生涯に渡って作り続けたことだ。『二十歳の恋』(62)というショート・オムニバスで『アントワーヌとコレット』の題でアントワーヌの20代の恋を描いた後、『夜霧の恋人たち』(68)、『家庭』(70)、『逃げ去る恋』(79)と続いた。
『大人は判ってくれない』(c)Photofest / Getty Images
本作のアントワーヌをオーディションで勝ち取ったジャン=ピエール・レオは、自身の成長と合わせアントワーヌを20年も演じ続けた。その中でも『夜霧の恋人たち』は、アカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど評価を受けた。
『恋のエチュード』(71)などのアントワーヌ役以外のトリュフォー作品でも主演を務めていたジャン=ピエール・レオは、トリュフォーの秘蔵っ子であったことは間違いない。しかも、トリュフォーだけでなくジャン=リュック・ゴダールからも愛され、『男性・女性』(66)や『ウイークエンド』(67)などにも出演した。トリュフォーとゴダールは、まるで競うかのようにジャン=ピエール・レオを起用しており、ヌーベルヴァーグの顔と言っても過言ではないだろう。