2019.09.20
トリュフォーの技術の凄さ
この映画のトリュフォーの技術には、伝統と新しさが同居している。ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』(58)や、ルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』(60)のアンリ・ドカエが本作の撮影を担当しており、オープニングシーンから非常に印象的だ。
オープニング、エッフェル塔に向かってカメラは走っており、塔のすぐ下に来た時、フランソワ・トリュフォーの名前がクレジットされる。カメラは走ると言っても、車の後部座席から街を見渡しているという方が印象として近い。
そしてそれは、終盤にも同じようなシーンが登場する。夜、アントワーヌが初めて涙を流し、街を見ながら車で連れていかれるシーンだが、今度は車窓から街を見ているというよりも、寂しい夜の街がアントワーヌの涙を見つめているという感じに見えてくる。
『大人は判ってくれない』(c)Photofest / Getty Images
また、カメラで印象的といえば、何と言ってもラストシーンだろう。”新しい波”という名に相応しい、フリーズ・フレーム(一時停止)を使ったアントワーヌの顔がフリーズするショットである。フリーズ・フレームが捉えたあのアントワーヌの表情は、誰の心にも残ってしまうほどにインパクトが大きい。何かを決意したような、逆に諦めたような、大人の表情をするアントワーヌ。中盤で、アントワーヌがバルザックを真似て「ユーリカ!(見つけた)」と喜んでいた表情とはまるで違う。大人は判ってくれないから、自ら大人になるしかないと悟ってしまったかのような表情だ。
アントワーヌと同じ年頃でこの映画を見た時、私は随分と救われた気がした。アントワーヌのようにかなり不器用で遠回りな生き方をしても、いつか大人になる日は来る。自分は1人じゃない。アントワーヌを見てそう感じ、私は少し楽になったことを、大人になって再見して思い出した。
2019年、『大人は判ってくれない』生誕60年となった。この60年で、本作は多くの若者たちの気を楽にしてきたように感じる。映画オタクの男子高校生を描いた『ぼくとアールと彼女のさよなら』(15)の主人公グレッグの部屋には、本作のポスターが貼ってある。とりわけ私やグレッグのような、映画ファンの若者たちに届いた作品なのだ。これからの60年も、そうであり続けるであろう不朽の名作だ。
雑誌「映画秘宝」(洋泉社)を中心に執筆。著書『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)が発売中。
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