2017.10.06
大根仁が選んだ奥田民生のラストの曲は「CUSTOM」
手が届かないと思っていた彼女に多分だけど、でもきっと届いた! 的なハッピーな次を予感させる『モテキ』とは一転して、今回の作品では、憧れの女の子に手が届いた奇跡の後に訪れた人生の苦みがしっかり描かれる。
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(C)2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会
奥田民生になりたいと思ったボーイの季節は終わり、コーロキは30代後半にしてようやく、根拠のない妄想で浮かれる男ではなく、現実と自分の才覚を知る大人の男へと変貌する。そのラストに流れるのが、奥田民生の「CUSTOM」。「伝えたい事がそりゃ僕にだってあるんだ ただ笑っているけれど」の誰かにそっと伝えるかのような声かけから始まる曲で、今回の映画の恋の模様を彩っていたロックンロールな民生節とは全く曲調が違う。大根仁はユリイカの大根仁特集号のインタビューの中で、もともとこの曲は、「モテキ」のエンディングに流そうと考えていて、それに合わせたビターな結末を用意していたところ、東日本大震災が起き、幸世がきちんとみゆきに立ち向かうラストに変えたという。『モテキ』で使えなかったので、今回のラストに復活したのだが、その曲に合わせて、青年が成年へと変貌する妻夫木聡の圧巻の瞬間がカメラに収められている。ちなみに、大人になった後のコーロキのスタイルはニット帽にパーカー、スニーカー、ジーンズという渋カジから卒業したスーツ姿だけれど、これは妻夫木が『悪人』『怒り』で組んだ東宝のプロデューサー、川村元気をイメージしたものという。きっとコーロキはこの後、できる男として出版界を突き進んでいくのだろう。
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。ロングインタビュー・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』、『アクターズ・ファイル永瀬正敏』(共にキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワネットワーク)などがある。
公式サイト : https://www.toho.co.jp/movie/lineup/tamioboy.html
(C)2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会
※2017年10月記事掲載時の情報です。