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『アイネクライネナハトムジーク』が奏でる、小説・音楽・映画の幸福な“出会い”

(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

『アイネクライネナハトムジーク』が奏でる、小説・音楽・映画の幸福な“出会い”

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今泉力哉×鈴木謙一×月永雄太、才能豊かな製作陣



 先述のように4本の伊坂原作映画をすでに手がけていた制作プロダクションのダブは、本作のプロジェクトを2013年に本格始動させる。監督を決めるにあたり、伊坂がダブに推薦したのが、お気に入りの恋愛群像コメディー『こっぴどい猫』(12)で監督・脚本を務めた新鋭の今泉力哉だ。ダブが当時たまたま今泉監督の『鬼灯さん家のアネキ』(14)に制作で参加していたこともプラスに働き、『アイネクライネナハトムジーク』の監督を打診された今泉は快諾する。


 脚本に起用されたのは、やはり伊坂原作の映像化作品で実績のある鈴木謙一。成城大学在学中に先輩の中村義洋と出会い、『アヒルと鴨のコインロッカー』と『ゴールデンスランバー』を含む多くの中村監督作でシナリオを書いたほか、金子修介、中田秀夫といった巨匠たちの作品にも参加してきた脚本家だ。



『アイネクライネナハトムジーク』(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会


 鈴木は原作短編集の6編のうち、街頭アンケートに立つ佐藤と求職中の紗季の出会いを描く「アイネクライネ」、美容師の美奈子が電話で話すだけの常連客の弟・学に恋をする「ライトヘビー」、高校生の美緒が同級生の和人を誘って駐輪シール泥棒を探そうとする「ルックスライク」、日本人初のヘビー級ボクシング世界王者になったウィンストン小野が10年後タイトルに再挑戦する「ナハトムジーク」の4編を中心に再構成。さらに、映画オリジナルとなる佐藤と紗季の10年後を新たに書き加え、男女の心の機微と一風変わった家族の絆が織りなすストーリーを完成させた。


 撮影は月永雄太。日本大学芸術学部映画学科で同期だった冨永昌敬の監督作に数多く関わり、沖田修一や瀬田なつき、松尾スズキらの座組にも加わるようになったキャリアは、鈴木謙一との類似を感じさせる。ドイツ語で「小さな夜の音楽」を意味するタイトル(モーツァルトの名曲に由来する)の本作で、とりわけ重要な夜のシーンを含め、自然なライティングで俳優たちを魅力的にとらえる抜群のセンスに加え、流麗なカメラワークでドラマを盛り上げるテクニック。「座って喋る映画ばかりを撮ってきた」と自作を振り返る今泉監督を、効果的にサポートした。



『アイネクライネナハトムジーク』(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会


 原作小説が誕生するきっかけを作った斉藤和義は、主題歌「小さな夜」の作詞・作曲と音楽プロデューサーという形で映画にも貢献。「小さな夜」は、劇中でストリートミュージシャンの「斉藤さん」(演じるのはミュージシャンのこだまたいち)がアコースティックギターで弾き語るほか、エンドロールでは斉藤自身が歌うバージョンで余韻を持続させる。


 あるシーンで「ベリーベリーストロング ~アイネクライネ~」をアレンジしたBGMが流れるのも、斉藤のアイデアだという。伊坂が短編「アイネクライネ」で書いた会話中のフレーズ“ベリーベリーストロング”から斉藤の楽曲が生まれ、さらにこの台詞が語られる映画のバックグラウンドで同曲のメロディーが響くという、連綿と続く幸福なコラボに歓喜する伊坂と斉藤のファンも多いはずだ。



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