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『ダーティハリー』時代が求めたハリー・キャラハンの過剰な暴力

(c)Getty Images

『ダーティハリー』時代が求めたハリー・キャラハンの過剰な暴力

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正義がまかり通らない社会に対する不安



 ミランダ警告とは、被疑者に対して取り調べを行う前に4つの項目について読み上げる義務のこと。1966年にアメリカ合衆国最高裁判所が示した判決が基となっている。また「ミランダ」の名称は、「ミランダ対アリゾナ州事件」で強姦・誘拐の罪に問われたアーネスト・ミランダの名前に由来する。


 読み上げるべき4項目とは、①黙秘権がある、②供述が法廷で不利な証拠として用いられることがある、③弁護士を呼び、立ち会わせる権利がある、④弁護士を呼ぶ費用がなければ公選弁護人を付ける権利がある、という4点。映画の中で被疑者が逮捕される際に、これらの4項目が読み上げられる場面を目にした方も多いはず。被疑者の権利を保護するための権利(ミランダ警告の4項目)を読み上げなければ、それを理由に被疑者を起訴できなくなるのだ。


 『ダーティハリー』では、スコルピオがこれを逆手に取って釈放され、再び凶悪事件を起こすこととなる。そのジレンマを描くことは、当時の映画の中では斬新なテーマだった。



『ダーティハリー』(c) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 イーストウッドはこの件に関して「政治的なメッセージだと受け取る観客もいるようだが、そんな意図はない。面白い映画を撮ることだけを考えていたんだよ、そんなのナンセンスだ」とインタビューで答えているが、間違いなくこの後の刑事ドラマに与えた影響は大きい。


 1960〜70年代のアメリカは、公民権運動やベトナム戦争の真っ只中で、ケネディ大統領が暗殺され、ニクソン大統領はウォーターゲート事件に関与して退陣させられるなど、政治も社会も混沌とした時代だった。腐敗や怠慢が犯罪を助長する世の中であったからこそ、ハリー・キャラハン刑事の反骨精神は大衆の怒りを体現したものだったのだとも解せる。


 サム・ペキンパー監督は『わらの犬』(71)で、既に犯罪被害者が加害者に対して過剰な暴力で応戦する姿を描いていたが、『ダーティハリー』公開の2年半後には、チャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば』(74)が製作されている。さらに1976年には『タクシードライバー』が第29回カンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞。つまり、家族が犠牲になりながらも警察が犯人逮捕を果たせないことに怒りを覚え、自らの手で犯罪者たちを駆逐してゆく男を描いた『狼よさらば』のように、自警団的な考えを持った人間を描く“ビジランテ物”と呼ばれる作品群が生まれたのは、時代の要請だったのだと理解できる。



『ダーティハリー』(c) 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 凶悪な犯罪が増加し、治安が悪化するだけでなく、正義までもがまかり通らない社会に対して人々が不安を覚えたからこそ『ダーティハリー』は観客の支持を得たのだ。その一方で、『ダーティハリー』は過剰な暴力に対する批判にも晒された。この映画に対して議論が巻き起こったことは、それまで指摘されることがなかった問題を提示し、時代の流れに対する先見性を持っていたからこそなのだ。



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