世界中でヒットした書籍「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズの出版秘話にヒントを得て作られた、フランス・ベルギーの合作映画『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』。ラストまで結末が見抜けないこの本格ミステリーの音楽を担当したのは、『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』『嘘はフィクサーのはじまり』『人間失格 太宰治と3人の女たち』なども手がけた三宅純。本作では、三宅氏の音楽が映画を一つ上のクオリティに格上げし、上質なミステリーに仕上げているのは間違いないだろう。今回は三宅氏に本作の音楽制作について話を伺った。
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悩み続けるレジス監督
Q:レジス監督からは、音楽にはギル・エヴァンスのテイストが欲しいと当初依頼されたとのこと。映画は確かにそのテイストの印象があり、音楽の世界観も統一されているように感じます。しかし、注意深く聴いてみると、ギル・エヴァンスのテイストは冒頭で最も強く感じ、他の箇所はまた違ったテイストのように思えました。それでも全体的には統一された印象があるのですが、そのあたりのバランスはどのように取られたのでしょうか。
三宅:最初は脚本段階でレジス監督と話したのですが、その時は全編を通してジャズのテイストで押し切るつもりだと言っていました。しかし、いざ撮り終わってみたら、そのテイストだけでは厳しいかもしれないと、彼の迷いが始まったんです。バーナード・ハーマンにいきたいとか、やっぱりジャズに戻りたいとか、クラシカルなアプローチがいいとか、サスペンスの王道を行くべきではないかとか、いろんな要求を出されて一通り付き合いましたね。
Q:監督の要求に応じて、全てデモなどは作られたのでしょうか?
三宅:はい、膨大な数を作っております。いやもうこれほど大変な仕事は他になかったですね(笑)。当初予定していた音楽の制作スケジュールは三ヶ月だったのですが、最終的には一年半かかりました。
冒頭で流れるギル・エヴァンス・テイストの曲は、テーマ曲が欲しいと言われて撮影前に書いた曲なんです。ギルのテイストは尊重しつつシンフォニックな要素も入れてポストモダンな感じにしたら、すごく気に入ってくれて、撮影中これをずっと流していたそうです。とはいえ、最終的に残してくれたからいいけど、使われるかどうか、危うかった時期もありましたね。
また、統一感という意味では、自分が関わっていることはもちろん、基本的には同じスタジオ、共通のミュージシャン、エンジニアで録音してますから、そういう意味でのトータリーティはあるはずです。音楽のジャンルでいうと、かなり多岐に渡っていますけどね。