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【ミニシアター再訪】第8回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その3 渋谷の夜を変えた音楽映画 後編

【ミニシアター再訪】第8回 “渋谷劇場”の幕開け、ミニシアターの開花・・・その3 渋谷の夜を変えた音楽映画 後編

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『バグダッド・カフェ』やリンチ作品も大ヒット






◉『バグダッド・カフェ』は音楽とともに大ヒット。『ワイルド・アット・ハート』公開時は監督のデヴィッド・リンチが来日した (90年代の記者会見での写真)。


 90年代が近づくと、クズイ・エンタープライズはニューヨーク・テイストからさらにレパートリーを広げて、ドイツ出身のパーシー・アドロン監督のファンタジー『バグダッド・カフェ』(87)を日本に輸入した。テーマ曲の「コーリング・ユー」がいつまでも耳から離れない心優しい作品だ。


 この映画に関して遠藤さんは「海外といろいろパイプのあった会社だからこそ、上映権を早めに買うことができました」と言う。この作品は渋谷を代表するミニシアターのひとつ、シネマライズにかけて約4か月のロングランとなり、80年代のミニシアターを代表する人気作品のひとつとなった。


 さらにデヴィッド・リンチ監督の『ワイルド・アット・ハート』(90)では商社の資金協力も得て、東宝系の昼間の拡大ロードショーも実現した。この映画とコーエン兄弟の『バートン・フィンク』(91)はいずれもカンヌの大賞であるパルムドール受賞作。こうした作品によって配給会社としてさらに大きな道へと踏み出していく(遠藤さんと伊地知さんは、変化が起こる中、退社した)。


 他にはジョン・ウォーターズ監督の代表作『ヘアスプレー』(88、後にミュージカル版も作られる)やアキ・カウリスマキ監督の日本初登場作、『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』(89)なども輸入。監督選びに先見の明があり、ポップなテイストの作品を売るのが得意な会社だった。


 90年代以降はジュリエット・ビノシュやジュリー・デルピーなど、ヨーロッパの人気女優たちの共演が話題になった故クシュシュトフ・キェシロフスキ監督の『トリコロール』3部作(93~94)なども輸入して、創生期とは異なる女性路線にも手を広げた(Bunkamuraル・シネマで公開)。


 いつもユニークな作品を輸入していたが、この会社の創生期を知る人間としては、原点ともいうべき渋谷のささやかなオフィスでの80年代の光景が忘れがたい。


 小さな部屋でビールを飲みながら新しい音楽や映画のことを語り、バブル経済へと向かう東京の浮かれた街のエネルギーを体中で受けとめる。そして、何かキラキラするものを探し、直感を頼りに猥雑な空気の中を歩く。


 そんな80年代の渋谷のストリートの残像が、トーキング・ヘッズのライブ映画を見るたびに今も脳裏によみがえってくる──。

 


◉かつてKUZUIエンタープライズが入っていた渋谷のビル(真ん中)。Bunkamuraの近くにある(2013年撮影)。



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文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書にウディ・アレンの評伝本「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



※本記事は、2013年~2014年の間、芸術新聞社運営のWEBサイトにて連載されていた記事です。今回、大森さわこ様と株式会社芸術新聞社様の許可をいただき転載させていただいております。なお、「ミニシアター再訪」は大幅加筆し、新取材も加え、21年にアルテス・パブリッシングより単行本化が予定されています。

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