オーディションは「部屋に入ってきた瞬間にわかる」
Q:キャスト決めって、一般的には「オファー」か「オーディション」があるかと思うのですが、パブリックイメージがどれくらいリアルなのか、気になります。
藤井:僕の場合、オーディションは徐々に減ってきていますね。30代の俳優とかになると、これまでの出演作を見ればなんとなくつかめるので、オーディションに来るのは10代の子が圧倒的に多いです。
今回は、つばめの同級生役の醍醐虎汰朗くんや、クラスメイトの3人の女の子はオーディションで決めました。『デイアンドナイト』の清原果耶さんもオーディションですしね。
Q:そうだったんですね! 醍醐さんは『天気の子』(19)もそうですが、オーディションで多数の役を勝ち取っていてすごいな……。
藤井:醍醐くんは、オーディションの一言目が「役を獲りにきました、よろしくお願いします」で、「俺こういう子大好き!」って思いましたね(笑)。今回は、書類審査→1次審査→最終のオーディションを行ったのですが、やっぱり彼が一番良かった。圧倒的に実力がありましたね。
Q:オーディションって、与えられたセリフを読んだり、エチュード(即興芝居)をやったり……といったイメージがあるのですが、どういうことをされるのでしょう?
藤井:僕の場合は自己紹介をしてもらって、すぐに芝居に移りますね。オーディションって、僕の中でイメージしているものがあるので、部屋に入った瞬間に決まる感覚があります。
Q:ほう! その辺り、もう少し詳しくお聞きしたいです。
藤井:つまり、ファーストインプレッションなんです。入ってきた瞬間に、自分がイメージしている役のような出で立ちの子が来てくれたら、高揚しますし、より集中してみるようになります。
俳優部とかに「オーディション全然受かんないんないです」って相談されたときに話すのは、「定型文は要らない」ということ。「最近こういう面白いことがありました」とかは、僕は興味ない。こっちは映画作るために必死なんだから。
だからできれば、その“役”で会場に来てくれる人の方が、圧倒的に合格率は高いと思うんですよ。服装とかも含めて、どれくらい寄せてきてくれるか。あと、僕の作品を観てくれてる人は、こちらが好きな芝居のジャンルを分かってると思うんです。そういうところを含めて、どれだけ準備してきてくれてるかっていうのはすごく見ますね。
ただ難しいのは「藤井監督のこの映画が大好きです!」って言われると、僕みたいなシャイな人間は「すごく媚びてる。怖い……」ってなっちゃうところです(苦笑)。
Q:(笑)。オーディションは、芸能事務所に募集をかける形をとるのでしょうか。
藤井:キャスティングプロデューサーや、自分でキャスティングもされる(前田)浩子さんのようなプロデューサーが、まず事務所にFAXなどで募集をかけます。「こういう映画のオーディションをします。監督は藤井道人で、十何歳~何歳の男女を求めています、開催日と場所はこちらです」のような要綱を送って、その後返送いただいた書類を審査して実技に移る形ですね。
前田:岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』(01)では、360人ぐらいに会いましたね。さっき藤井さんがおっしゃっていたように、やっぱりそれぐらい会うと、入ってきた瞬間に分かるようになります。
Q:前田さんの中で、こういう人の方が惹かれる、といったタイプはいるのでしょうか。
前田:ちょっと欠けた人が面白いなと思いますね。オーディション慣れしてる子って、こっちが監督とプロデューサーって知ると、スイッチが入ったみたいに「◯◯といいます! よろしくお願いします!」って、営業モードな感じになってしまうんです。
Q:オーディションの有無も含めて、キャスティングはどれくらいの期間で決めていくものなのでしょう?
藤井:『宇宙でいちばんあかるい屋根』に関していえば、(清原)果耶さんがクランクインの半年前に決まりました。そこからはずっと継続してキャスティングを行っていきましたね。
普通、オーディションはクランクイン2ヶ月前くらいにやることが多いですね。子役は急に成長したりとか、いろんなことがあるので、1ヶ月前とかにやっておきます。