脚本を渡すこと自体が、役者へのプレゼン
Q:オーディションについてお聞きしましたが、オファーについても教えてください。例えばよく言われる「大物俳優は低予算でも出てくれるのか?」という疑問については、いかがでしょう?
藤井:正直、企画や脚本が俳優まで届けば可能性は大いにあります。というのも、俳優さんの前にマネージメント側が企画を見ますよね。その際に、「配給会社が決まってない」「監督が若くて、全然経験がない」といった部分をネガティブに感じたら、そもそも俳優さんに見せない、というパターンもよくあると思います。
脚本が面白ければ出てくれるっていう方はすごく多くて、『ヤクザと家族 The Family』の舘ひろしさんは、ご本人が「面白い、やりたい」って言ってくださって、一気に好転しました。『宇宙でいちばんあかるい屋根』の桃井かおりさんも、ロサンゼルス在住なのに、脚本で選んでくださいました。
Q:そうか、キャスティングの最初の関門が、マネージャーさんなんですね。キャスティングディレクター、もしくはプロデューサーを通してマネージメントに脚本を渡して、うまくいけばその先につながる。
藤井:いいマネージャーさんって、本人も審美眼がすごい。僕自身も事務所に入っていますが、マネージャーさんのダメ出しや意見がすごく的確で信頼しています。マネージャーさんが「この脚本は面白い。やらせたい」ってなってくれることが、第一ですかね。
Q:前田さんにもお聞きしたいのですが、脚本をお送りする際に、別途プレゼンのようなことはされるのでしょうか。
前田:単純に、脚本を渡すこと自体がプレゼンかもしれません。
今回、このオールスターキャストを実現するには予算がちょっと厳しいかなって、藤井さんに泣きを入れたんですが、「キャスティングに掛かってるんだ」って一歩も引かないので、とにかく、もう脚本で勝負するしかないなと。
潤沢な出演料を提示できる状況でもない中で、どこまで頑張れるかはプロデューサーの仕事ではあるんですが、同時に脚本がどれだけ彼らの心に響くかだな。とも感じていました。つばめの父親を演じてみたいという一点だけで、吉岡秀隆さんは受けてくださいましたし、桃井さんも「こういう役を待ってたんだ」と快諾してくださいました。
桃井さんが、「自分自身、年齢を重ねていることは感じているし、こういう役をやってみたかった」と言ってくださったこと、私がご連絡する前に、桃井さんのお兄様が「これ面白いよ」って『新聞記者』(19)の話を桃井さんにしていたことも、勢いをつけてくれました。
Q:藤井さんの場合はご自身で脚本も書かれるから、やっぱり脚本が良いと「監督の演出も素晴らしいんだろうな」と、役者さんの中で直結するんでしょうね。先ほど「泣きを入れた」とお話しされましたが、監督から希望されるキャスティングのハードルが高いことは、結構多いのでしょうか。
前田:ものすごくあります。今回は、「もう伊藤健太郎がいるんだから」って言ったんだけど、いややっぱり吉岡秀隆さんや坂井真紀さんがいいって引かないんです。
ただ「そうだよな、観たいよな」って、映画ファンとしての魂に火もつけられてしまい、今回はもう頑張るしかないと思って、事務所の人に「冗談でしょ」って怒られたり、門前払いされる覚悟で当たりました。
Q:藤井さんはやっぱり、「前田さんだからやってくれるだろう」という期待があったのでしょうか。
藤井:それはありますね。でも、どんな時も絶対に徹底しているのは、「人生で映画って何本も撮れるものじゃないし、妥協して撮るものでもない」という想いです。
自分の意志じゃなくても、「待っていて仕事が来る」というジャンルの方達と違い、我々はこの映画が駄目だったら駄目なんですよ。もう次がないですよね。だからこそ、どこまで一緒に死んでくれるというか、というモチベーションを共有したい。
Q:覚悟がゆえの、こだわりですね。
藤井:『宇宙でいちばんあかるい屋根』で印象的だったのが、キャスティングもそうなんですが、劇中に出てくる水族館も「山形まで行きたい」って僕が引かなくて。1回頭にその絵が浮かんじゃったら、他のところにロケハン連れていかれたりしても、もう車から降りたくないんです。Googleで見て、「ここじゃない」ってもう分かってるから。
藤井監督がこだわった水族館がメインのポスタービジュアル
でも今回はラインプロデューサーの森さんが素晴らしくて、「じゃあセットをワンサイズ小さくすれば、これが出来ます。どっちを選びますか」って選択肢をくれたんです。「じゃあ、小さくします」って、美術の部谷京子さんが腕によりをかけた模型を横目に答えるっていう(苦笑)。
でも部谷さんは、「ええー」とか言いながらも、僕の想いを優先してくれた。森さんも浩子さんも、「徹底して、みんなで妥協しない」をやらせてくれるプロデューサーでした。