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【CINEMORE ACADEMY Vol.3】プリプロダクション編 映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の作り方

【CINEMORE ACADEMY Vol.3】プリプロダクション編 映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の作り方

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プリプロダクションの極意は、「バランス感覚」



Q:これからの映画づくりについて、新型コロナウイルスの影響はどういった部分に出てくるとお考えですか?


藤井:脚本の内容に制限がかかるのが、今一番怖いことですね。また、インディーズの若手監督が作品を発表できる劇場がちゃんと確保できるのか、すごく心配です。


現場としては、誰もまだ分からないと思うんですよ。まずはガイドライン通りやってみようっていうことが、しばらく続くんじゃないのかな。それぞれの命を預かっているわけですし、本数は減ったりするのではないかと思います。僕自身も1本映画が中止になっちゃいましたし。


ポジティブな意味で言えば、本数が減ってもっと1本1本を大事にできる機会が増えるんじゃないのかなと、そこだけは期待しているところではありますね。


前田:これから才能を期待されてる人たちの映画が観られるミニシアターが、なくならないように私も応援しています。そこがなくなると、映画業界が面白くなくなっちゃう。


ただ同時に製作に関しては、さっき藤井さんもいったように、ガイドラインに沿ったり、手間暇は掛かるわけです。手間が掛かるってことは、時間が掛かってくる、つまりお金もかかるので、そこを私たちは見据えていく必要がありますね。


あとはやっぱり、公開の仕方ですよね。劇場に以前のようにお客さんが戻ってくるまではもう少しかかるでしょうし、じゃあ配信が早まるのかとか、劇場と配信の2本立てをうまく成立させるやり方はないかなとか、その打ち出し方も今後の課題だと思います。


Q:ありがとうございます。最後に、今回お話しいただいたプリプロダクションの総括として、これは大変だ……!という部分、教えてもらえますでしょうか。


藤井:バランス感覚をずっと取り続けることですね。一番お金に直結するものがプリプロダクションだと思うんですよ。このロケ地に行ったらどれだけのお金が掛かって、どれだけのエキストラがいてとか、ラインプロデューサーおよびプロデューサーとのせめぎ合いがいつも大変です。


僕が言ってることは無茶だってことは分かっていて、ただどこかでそれを無視しなきゃいけない。プロデューサーが言ってることを全部やりますってなったら、それはそれで作る意義がなくなっちゃうし、プロデューサーの苦労を分かった上で自分のアイデアを通していく。


毎回、会話がすべて心理戦みたいな感じはあるから、自分としてはちょっとピリピリしちゃいますね。向こうの気持ちも分かるし、しかもチームだし。


前田:私も全く同じです。監督が楽をしたくてわがまま言ってるわけじゃなくて、クオリティだったり世界観を広げるためなのは、もう十分に分かっているので、理想と現実の間ですよね。


ただ、私たちがすごく悩んでる姿を垣間見た美術の部谷さんが、屋上に置く貯水タンクをオークションで格安で手に入れてきてくれて、助けられましたね。桃井さんも、そのタンクに合わせてお芝居を作っていました。そうやって一生懸命支えてくれる方々に、予算の関係で「セットを一回り小さくしないといけない」とか言わなきゃいけないのはつらいですね。


Q:今回もお話しいただいたように、前田さんの映画ファンとしての想いと、プロデューサーとしての想いの葛藤がありますよね。


前田:『宇宙でいちばんあかるい屋根』ってナイトシーン、空撮、ドローン撮影、雨降らし、事故シーン、水族館、学校、病院、坂道など多岐に渡るロケーションと、かなりハードルが高かったんですよね。森さんから「ほぼフルメニューですね」ってメールが来て、はたと気づかされました。


ここは自分が予算設定を見誤っちゃった部分もあるから、「そんなの予算ないよ」みたいに言い切れないところもあってですね(苦笑)。そこら辺は今後の参考にして、成長できればなと思っております。


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健全な映画づくりに欠かせない、プリプロダクション。お金の話やスケジューリングなど、実務的な部分も多いが、その根底にあるのは「いいものを作りたい」という信念だ。予算も時間も制限された中で、最高のものを生み出そうと皆が粉骨砕身取り組む――。それがゆえに、彼らは「プロ」なのだろう。


次回は、実際の撮影について、詳しく聞いていく。引き続き、お楽しみに!



Vol.4:撮影編はこちら!


Vol.2:脚本編はこちら!




監督:藤井道人



日本大学芸術学部映画学科卒業。脚本家の青木研次に師事。映像プロダクション「BABEL LABEL」を2010年に設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)で劇場公開作品監督デビュー。以降、『光と血』(17年)、Netflixオリジナル作品『100万円の女たち』(17年)、『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)が公開される。2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門を含む6部門受賞。また他にも多数映画賞を受賞。新作映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』(今秋公開予定)が控える。



プロデューサー:前田浩子



鹿児島県出身。映像企画・制作会社、株式会社アルケミー・プロダクションズ代表取締役、プロデューサー。大学在学中から語学力を活かし、マドンナ、ローリングストーンズ、マイケル・ジャクソンなどの外国人アーティストのコンサートツアー、及び音楽番組の制作に携わり、その後映画・PV・CMに活動の場を移す。映画監督・岩井俊二と出会い、1996年に劇場用映画『スワロウテイル』で映画プロデューサー・デビュー。岩井作品は他に『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)『花とアリス』(2004年)がある。1999年『ビッグショー・ハワイに唄えば』(井筒和幸監督)プロデュース、同年『GTO 映画版』(鈴木雅之監督)のキャスティング。

その後海外作品へも活動の場を広げる。1998年長野オリンピックの米国製作記録映画、オリンピック・オフィシャル・フィルムを制作統括。1999~2003年に香港のウォン・カーウァイ脚本・監督『2046』の制作。2003&2004年公開のクエンティン・タランティーノ監督・脚本『キル・ビル』をプロデュース。2005年台湾映画『Silk』(チャオ・スーピン監督)のキャスティング、及び制作コーディネート。


その他主なプロデュース作品

「虹の女神 レインボーソング」(06:熊澤尚人監督)、『百万円と苦虫女』(08:タナダユキ監督)、『洋菓子店コアンドル』(11:深川栄洋監督)、『MY HOUSE』(12:堤幸彦監督)、『ぱいかじ南海作戦』(12:細川徹監督)、『星ガ丘ワンダーランド』(15:柳沢翔監督)、『オケ老人!』(16:細川徹監督)、『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(19:細川徹監督)



取材・文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema




『宇宙でいちばんあかるい屋根』

(c)2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会

2020年9月全国公開

配給: KADOKAWA

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