映画における、良い編集とは?
Q:ありがとうございます。最後に、「映画における良い編集とは?」をそれぞれお聞きしてよいでしょうか。
藤井:つないでるってわからない、違和感がないものでしょうか。
人間の感情って難しくて、一番観たいときに観たいものがきたとき、間違いなく快感を覚えられるかというと、必ずしもそうではない。例えば「バン! ドヤッ!!」って感じでつなげられたとき、引いちゃう人もいると思うんです。
そういう意味で、シームレスに見える、「自然なつなぎ」が僕は好きですね。
古川:監督のおっしゃる「シームレス」って、物語にとってのシームレスであって、例えば人の動きがちゃんとつながってて、状況がわかりやすい、画としての自然なつなぎとはまた違うと思うんです。
物語とカットの情報量の勢いをちゃんと維持させつつ、そのシーンで起こったことが次のシーンにどう影響するかを考えて、空気感や心情を残すのか、残さないのか。前のシーンの印象をそのまま受け継いでいったほうがいいシーンもあれば、断ち切るために、次のシーンの頭は広い引きを入れてリセットさせるべきところもある。
そういう複合的なところがすべてうまくいくと、物語に一番集中できる形になっていく気がします。それが目指すところで、良い編集なのかなとは思いますね。
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映画を構成する骨格でありながら、作業の詳細が謎に包まれた「編集」。職人色が極めて強いポジションであり、今回話を伺ったことで、1つひとつのシーンに込められた“心血”が可視化されたのではないか。
私たちが何気なく受け入れている“違和感のなさ”こそが、匠の技でもある――。『宇宙でいちばんあかるい屋根』公開時には、ぜひ演者のまばたきや、息遣いがどう切り取られているのか、編集の妙に目を凝らしていただきたい。
次回は、音楽について掘り下げて聞いていく。引き続き、お楽しみに!
監督:藤井道人
日本大学芸術学部映画学科卒業。脚本家の青木研次に師事。映像プロダクション「BABEL LABEL」を2010年に設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)で劇場公開作品監督デビュー。以降、『光と血』(17年)、Netflixオリジナル作品『100万円の女たち』(17年)、『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)が公開される。2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門を含む6部門受賞。また他にも多数映画賞を受賞。新作映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』(今秋公開予定)が控える。
編集技師:古川達馬
1987年長野県出身。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。
助手として編集技師の阿部亙英に師事。2017年、第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品された『三つの光』(17・吉田光希監督)から編集技師として活動。藤井監督作品には『青の帰り道』(18)から次回作『ヤクザと家族 The Family 』までほぼ全ての作品で編集を担当。『新聞記者』(19)では、第43 回日本アカデミー賞優秀編集賞を受賞した。竹中直人、山田孝之、齊藤工が監督を務める『ゾッキ』が公開待期中。
取材・文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『宇宙でいちばんあかるい屋根』
(c)2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会
2020年9月4日(金)全国公開
配給: KADOKAWA