映画は、どうやって「作られる」のだろうか?
映画の成り立ちを知れば、作品鑑賞はもっと面白くなる――。そこでCINEMOREでは、「CINEMORE ACADEMY」と題し、映画の作り方をクリエイターに学ぶプロジェクトを“開講”、映画製作の“リアル”をお届けする。
今回、講師に迎えるのは、『新聞記者』(19)で日本映画界に革命をもたらした俊英・藤井道人監督。9月4日公開予定の最新作『宇宙でいちばんあかるい屋根』を題材に、今回の映画をどのように作ったのか、詳しく伺っていく。
映画が作られていく過程に合わせて「企画編」「脚本編」「プリプロダクション編」「撮影編」と続いてきたが、今回は「編集編」。藤井監督と長年タッグを組んできた編集技師・古川達馬氏を迎え、編集の重要性や醍醐味を深堀りしていく。
普段我々がなかなか見ることのできない、「編集」という世界の深奥。そこにあったのは、1コマ・1カットに命を懸ける、作り手の果てしない矜持だった。
Index
- 映画編集の“原点”は『エリン・ブロコビッチ』
- 素材をすべて渡して、どう編集するかを“試す”
- 藤井作品に必要不可欠な“客観性”
- スタッフ各々に意見を聞き、編集に取り込む
- 3分の1秒をカットするだけで、印象が変わる
- 初挑戦した、CGの難しさ
- モノローグと回想シーンは極力使わない
- 映画における、良い編集とは?
映画編集の“原点”は『エリン・ブロコビッチ』
Q:まずは、藤井監督と古川さんの出会いをうかがえますでしょうか。
藤井:Netflixのドラマ『100万円の女たち』(17)のチーフ監督のオファーが来て、その時にNetflixサイドが「監督が希望するスタッフでやってみてください」と言ってくれたんです。
そこで、お願いした編集技師の助手が古川だったんです。それで、1話か2話の段階で彼がぱっとつないだ映像を観て「あ、この人できるじゃないか」って感じて。同い年ということもあって、ものづくりに対してのストイックさだったり、脚本の掘り下げだったり、スピード感だったり、そういう相性もすごく良かったんですね。
もともと編集技師は、ディレクターの原廣利監督が兼任していたこともあったので、プロダクションサイドにも「古川を編集技師にしたいです」と伝えました。そこからは僕の作品の編集は、基本古川が担当しています。
Q:古川さんは最初から、編集技師を目指されていたのでしょうか?
古川:そうですね。大学中退後に専門学校に行ったんですが、入学するときにはもう編集技師になろうと思っていました。
大学を中退しちゃった後に「もともと趣味だった映画の道に行くしかない」と決意して、1万円くらいのカメラを買って5分くらいの短編を撮っていたんですが、「編集」という作業をしたときに、一番喜びがあったんです。最も「映画を作ってるな」と感じられたんですよね。
Q:素敵なお話ですね。編集技師として、過去の作品などで「編集が面白いな」とか、影響を受けたものはあるのでしょうか。
古川:映画編集で迷ったときに、テクニック的なことではなく、「映画編集とは?」という根本に立ち返りたくて見返すようにしているのは、スティーブン・ソダーバーグ監督の『エリン・ブロコビッチ』(00)ですね。
Q:ソダーバーグなんですね!
古川:最近のソダーバーグって、自分で編集してると思うんですが、あのときってまだ編集者がついていて、今と何かが違うんですよね。『エリン・ブロコビッチ』は、僕の中で「物語を語るときの、本当にベストな編集」なんです。