経営者目線で考えた、町の造形
Q:あくまで現実と地続きで、フィクショナルになりすぎてはダメ、ということですね。
荒木:そうですね。美術スタッフに伝えたのは、「自分がこの町を“経営”するとしたら、どうする?」ということです。
「お金がかかるから制服とか作らないよね。古着屋で大量にパーカー買ってみんなに着せて、なんとなく『自分はこの町に属している』という感覚を与えようよ」とか、「説明会とかしてたら、人員がかかるだけ。ガイドブックを部屋に置いておくだけでいいよね」とか……。経営する側の視点で考えたら、なるべく手を抜きたいし、楽をしたい。
そういった現実味については、かなり話し込みました。
Q:そうか、だから観ていると「日常に気味の悪さが入り込んできた」感覚をおぼえるんですね。計算された手抜き感、というか。
荒木:僕としては完全にリアリズムで、蒼山たちがネットに書き込むシーンなんかも、ごく普通の食堂に近いイメージです。そこに美術パートが「もうちょっとこういう要素を入れたい」と提案してくれて、作り上げていった感じですね。
ちょっとヌーベルバーグ的というか、本体(ロケ地)をどれだけいじらずに、リアリティを保ったまま作っていけるか、がポイントでした。
この話って、テキストで読んだときは想像するのがすごく難しいと思うんです。そんななか、キャストやスタッフと力を合わせて作っていく中で少しずつ3D化して、現実になっていくのをドキドキしながら見て、撮っていくような現場でしたね。