中村倫也か、ライアン・ゴズリングかで悩んだ
Q:今おっしゃったように立体化がすごく難しい中で、主演を務められたのが中村倫也さん。お願いする決め手はどのようなものだったのでしょう?
荒木:まず、誰を主演にするかというときに、僕の中で大きな葛藤があって……。ライアン・ゴズリングか、トモヤ・ナカムラかを決めなければならない(笑)。
Q:(笑)。
荒木:ラブドールに恋をする『ラースと、その彼女』(07)を観たときに、こういう役者すごくいいな……と思ったんですよ。ハリウッドでああいうタイプの役者が出てくるとは、まったく思っていなかった。でもトモヤ・ナカムラもいいぞ……と悩みましたね。
中村倫也さんに関して言うと、あらゆる作品で自分の演技と、自分がやっていることを楽しんでいる。『100万円の女たち』(17)も『半分、青い。』(18)も『ホリデイラブ』(18)も……。
そんな中で、しばらくやっていなかった主演映画をやってみたらどうなるんだろう、というワクワク感がありました。『孤狼の血』(18)の感じもすごく面白いんだけど、真ん中にドン!と座ってみてもらいたい、という願望ですね。
やっぱり、主人公って、演じることもこちらからのリクエストも、すごく難しいんですよ。変化があって、気持ちのカーブがあって、1本の映画の中でどんどん変わっていくわけですから。それを、中村倫也で観てみたかったんですよね。
Q:愛を感じます。ちなみに中村さんとは、どうやってイメージの共有を図っていったのでしょうか。
荒木:最初にお会いしたときに緊張しちゃって、「エロスでお願いします」って言っちゃったんですよ(笑)。「はぁ……」みたいな感じになって、そこからすべてが始まりました。
本当に伝えたかったのは、役柄としては「流されやすい人」。なんとなく状況に流されちゃう、ふわふわした人。それと石橋静河さん演じる融通の利かないヒロインのぶつかり合いだよ、ということなんですが、僕が「一言で言わなきゃ」と焦ってその一言を考えすぎて結局伝えた「エロス」多分、困惑したでしょうが、結局は全てくみ取ってくれました。
Q:スゴいですね……。
荒木:まあ脚本もあるんで(笑)とにかく彼はものすごく賢い方ですよね。撮影中は、「ここはこう思う」「ここはこっちじゃないですか?」ということを中村さんにうまいことツッコんでもらって、一緒に作っていきました。ある程度は順撮り(シナリオの順番通りに撮影)だったこともあり、蒼山の人間としての変化や成長をかなり繊細に計算して演じてくれましたね。