頭の中で、キャラクターが勝手に話し出す
Q:今の「人間」のお話にも通じるかと思うのですが、水城先生の作品は、セリフがとにかく突き刺さります。どうしてこんなにも響く言葉を生み出せるのでしょう?
水城:私にとっては漫画って、イタコみたいな仕事なんです。その人がそこにいるから、私はただ紙に自動的に降ろす感じですね。
だから、登場人物と意見が違ったりもしますよ。たとえば今ヶ瀬は、さも自分の恋が本物かのように言うけど、「そうかなぁ? 執着でしょ」って思う(笑)。
でも、私の意見だけ入れたら私の話になってしまうし、私は私を描きたいわけではないんです。感覚としては、ドキュメンタリーを作っているようなものに近いかもしれません。
ただ実在の人物だと、多分全部は私に見せてくれないと思うんです。その点に関しては私は人物の全部が見えているから、自然なセリフが出てくるのかもしれません。
行定:なるほどな…。水城先生の原作は、キャラクターの芯がブレていなくて、生きていますよね。頭で計算して作っていたら、こうはならない。「好きだ」といえばわかってしまうものを、グッと引き伸ばして、その中にこれでもかと試練を投入している。だからこそ、リアリティがある。すごく勉強になりました。
水城:ありがとうございます。
行定:いやでも、いくら“降りてくる”とはいえ、よくこんなセリフが出てくるなと。
今回、恋愛映画史に残る名言を落とし込めたと思っているのですが、「心底惚れるって、その人が“例外”になるってことなんだけど、あんたにはわからないか」「いや、わかるよ」というやりとり。このセリフに出会ったときに、「そうだよな、1番とか2番じゃないんだよな」って気づかされたんですよね。
僕はいままで1番とか2番を争う映画を作り続けてきたわけです。「お前が1番だよ」って言いながら2番がいる、そういう人の日常が好きで。でも「例外」という感覚は意識してこなかった。こういう風に恋愛を定義した作品はないし、これを言い切ってしまったら、ラブストーリーでやることがなくなっちゃう(笑)。すごいセリフですよね。
水城:今ヶ瀬は恋愛脳だから、言葉がドラマティックになっちゃうんですよね。その状態が彼にとってもどこか気持ちがよくて、アドレナリンが出まくっているんだと思います(笑)。
行定:なるほど(笑)。こういった言葉は、脚本とかだと「誰かがそう言ってたよ」とか「そういう話があってね」と間接的な形で書きがちなんですよ。
でも、今ヶ瀬くんが自発的に言っているからこそ、効いていますよね。