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『窮鼠はチーズの夢を見る』原作:水城せとな×監督:行定勲クリエイター対談【Director's Interview Vol.76】

『窮鼠はチーズの夢を見る』原作:水城せとな×監督:行定勲クリエイター対談【Director's Interview Vol.76】

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「人間」を描く原作に見つけた、「背景」という自由



Q:実写映画化にあたり、行定監督が映像面で気を配った部分はどんなところでしょう?


行定:小説の映画化も漫画の映画化もそうなんだけど、同じものを提示せず、かつ魅力を損なわないようなものを作っていかないと原作にかなうわけないんですよ。原作ファンからも「全然違うじゃん」って言われちゃうしね(笑)。


違うものにするけど、「窮鼠はチーズの夢を見る」から生まれたものだ、という風には思ってもらわないといけない。そのうえで考えたのは、水城せとな先生の作品は「人間」を描いているんだ、ということ。


引き絵ももちろんあるんだけど、強く印象に残るのは人間と人間がぶつかり合ってる顔。特に言い合うシーンなどは、クローズアップのイメージが強い。背景よりも人間を重視しているんだな、と解釈したわけです。


岡崎京子さん原作の『リバーズ・エッジ』(18)を作ったときのことですが、彼女の作品って写真資料を撮ってきて写実してるのがわかる。そうすると、映画化する際に僕たちもその場所にロケハンに行って、追体験させられちゃう。それってある種漫画を映像化する際につきものの弊害というか、選択肢がなくなってしまうんですよね。


でも『窮鼠はチーズの夢を見る』は、人間に重きを置いているから、背景に自由度が高い。人間や、言葉を外した中で、どう補填できるか。そこだけに集中できたんですよね。




Q:おっしゃる通り、原作を読んだとき、恭一や今ヶ瀬の顔がゆがむ瞬間というか、表情の変化が鮮やかに切り取られていますよね。水城先生は、どういった意識でコマ割りを作られているのでしょう。


水城:先ほど「作っているわけではなく、人を描写する」というお話をしましたが、効果は結果的にそうなっているものなんですよね。その人の感情のほとばしり、或いは抑えている際の沈黙などがどれだけ伝わるコマ割りにするか、を描いた結果なんです。


漫画を描くときに私の頭の中に見えているのは、映像なんですよ。それを、自分の絵という記号で写し取っていく形なんですよね。


行定監督のお話を聞いて浮いて思い出したのは、フランス映画っぽい会話劇です。フランス映画の会話って、ひたすらああ言えばこう言うの繰り返しで、圧が強いじゃないですか(笑)。「窮鼠はチーズの夢を見る」は、きっとそういう世界なんだろうなぁ……と思って描いていました。


行定:確かにそうかもしれない。引いている絵なのに、アップに感じさせるんですよね。言葉がそうさせているんでしょうね。面白いね。


水城:漫画って、読んでくれる人それぞれが、頭の中で自由に声をあてているわけじゃないですか。そういう意味で、読みやすいように、間(ま)が伝わるように、吹き出しの位置を考えることはありますね。


行定:「窮鼠はチーズの夢を見る」は本当に難しいよね。設定然としている作品ではなく、部屋の中での会話劇じゃないですか。顔ばっかり描いてるわけにもいけないし。アクションにもちゃんとつなげていかなくちゃいけない。


水城:そうですね。そこでタバコとか灰皿とかコーヒーカップが出てくるんです。


行定:なるほどなぁ。



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