1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『窮鼠はチーズの夢を見る』原作:水城せとな×監督:行定勲クリエイター対談【Director's Interview Vol.76】
『窮鼠はチーズの夢を見る』原作:水城せとな×監督:行定勲クリエイター対談【Director's Interview Vol.76】

『窮鼠はチーズの夢を見る』原作:水城せとな×監督:行定勲クリエイター対談【Director's Interview Vol.76】

PAGES


現代は、個人が“選択”を行う時代



Q:最後に、テーマ性についてもお聞かせください。原作の「窮鼠はチーズの夢を見る」の発表から16年が経ち、LGBTQ的な要素の受け取られ方は、変わってきたように感じられていますか?


水城:そうですね……。昨今の“受け取り方”にも正統性や根拠があるとは思うのですが、同時に同調圧力みたいになってきてしまっている部分もあるのかなとは感じます。


最終的にたどり着くべき正しい解釈はあるにせよ、一人ひとりが「自分はこう思う」という意見を持っていいんじゃないかと。「これはこういう風に考えなくてはいけない」と新しさ・古さで論じるのではなくて、もっと自由でいいと思います。


そういった意味では、昔の方が誰も何も押し付けていなくて、もっと大らかだったような気がします。今は様々な言葉が生まれたことで「こう感じなければいけない」とか「こう呼ばなくちゃいけない」と言われるようになって、結果的に解釈を狭めてしまっている。


フラットだった昔の時代に、傷ついてしまった方ももちろんいるかとは思いますが、カテゴライズすることで、今も別の形で傷つけてしまっているように見えちゃいますね。




行定:僕も、この作品において「LGBTQ」としてカテゴライズされていることに違和感を覚えますね。


僕は原作を読んだときにすごく今日的な話だと思って、それは何かというと「個人」の物語であることです。


現代は、「個人が何を選択するか」という時代だと思うんです。『窮鼠はチーズの夢を見る』においても、恭一は性別を超えた選択をしますよね。そこには正解も不正解もない。「個人が、何を選ぶか」だけなんです。


だからこそ、先日アメリカであったような「LGBTQではない役者がLGBTQのキャラクターを演じるのはどうなのか?」といった部分も、なぜそんなことを言うのかな、とは思うんです。役者は真剣に役に向き合い、当事者に取材もしたうえで真摯に演じるわけですから。


Q:おふたりの感覚、非常にわかります。言葉によって、かえって遠ざけてしまっているのでは?という感覚がありますよね。


行定:ジェンダーにおける僕の考え方の基盤になっているのは、僕がアルバイトをしていたところの店長さん。彼はゲイで、僕にいろんなことを教えてくれました。


すごく印象に残っているのが「私のことを差別的に見るんじゃないの。でも区別はしてね? だって特別だから」という言葉。「差別と区別の違いが分かる人間になりなさい」と言ってくれたその人のことを、今でも尊敬しています。


個人としてとても強いし、魅力的ですよね。今ヶ瀬にもその強さがあると思います。


水城:今ヶ瀬って決してリベラルなタイプじゃないですしね。男性しか好きにならないし、もし女の子が「好き」って言ってきても、絶対に恭一さんが今ヶ瀬にしたみたいに優しく受け入れてはくれない(笑)。


恭一さんは今ヶ瀬に「好き」って言われて「え!」とは思うけど、それはヘテロの自分が性的対象にされたことに対してであって、付き合い方は全く変わっていない。「そうなんだ」で済んでる時点で、彼の器の大きさが見えますよね。


恭一さんが「自分はゲイじゃないからさ」って言いながらも、今ヶ瀬と一緒にご飯を食べたり、自分ができる形で受容していく姿が、今ヶ瀬にとっても想像していた以上に響いたんじゃないかと思います。



『窮鼠はチーズの夢を見る』を今すぐ予約する↓








原作:水城せとな

1971年生まれ、神奈川県出身。1993年、プチコミック (小学館)にてデビュー。以降、別冊少女コミック、Judy、月刊フラワーズなどで活躍を続け、2012年、月刊フラワーズでの連載「失恋ショコラティエ」で第36回講談社漫画賞を受賞。同作は14年、テレビドラマ化もされた。代表作に「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」「失恋ショコラティエ」「黒薔薇アリス」「脳内ポイズンベリー」などがある。


監督:行定 勲

1968年生まれ、熊本県出身。長編第一作『ひまわり』(00)で、第5回釜山国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。『GO』(01)では、第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。また『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)は同年邦画1位の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』(05)、『春の雪』(05)、『クローズド・ノート』(07)、『今度は愛妻家』(10)、『パレード』(10/第60回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』(14)、『真夜中の五分前』(14)、『ピンクとグレー』(16)、故郷・熊本を舞台に撮影した『うつくしいひと』(16)、日活ロマンポルノリブート『ジムノペディに乱れる』(16)、『うつくしいひと サバ?』(17)、『ナラタージュ』(17)、『リバーズ・エッジ』(18/第68回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞受賞)など多数ある。また映画に留まらず「趣味の部屋」(13・15)、「ブエノスアイレス午前零時」(14)、「タンゴ・冬の終わりに」(15)など舞台演出も手掛け16年、毎日芸術賞演劇部門寄託賞の第18回千田是也賞を受賞するなど、高い評価を得ている。公開待機作品に『劇場』(20・4/17公開)がある。



取材・文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema






『窮鼠はチーズの夢を見る』

9月11日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー

配給:ファントム・フィルム

(c)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『窮鼠はチーズの夢を見る』原作:水城せとな×監督:行定勲クリエイター対談【Director's Interview Vol.76】