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酒場の客から賞金稼ぎへ『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.48】

酒場の客から賞金稼ぎへ『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.48】

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ロボットと昆虫頭





 ドロイドのIG-88も忘れられない。ドロイドでありながら賞金稼ぎというのがまず素晴らしい。それまでロボットというのは必ず生きた持ち主がいて、その従者でしかないものだとばかり思っていたが、IG-88を知ってその常識は崩れた。後にこのタイプのドロイドは最初からアサシン・ドロイドやハンター・ドロイドとして造られたものということになり、『マンダロリアン』にも同型のIG-11が登場する。筒状の頭に棒のような手足をしており、映画では文字通り棒立ちしているだけなので、一体どんなふうに戦うのか想像をかき立てられたものだが、ドラマでそれが実現した。


 この筒状の頭部もやはり前作の酒場に登場する。Uの字型のカウンターの内側にチューブやタンクとともに、IGの頭部パーツがほとんどそのままの形でいくつか並んでいるのだ。劇中では用途不明の部品だが、実際にはロールスロイス社製のジェットエンジンのパーツのひとつであり、さぞこのパーツがたくさん手に入ったのだろう。この極めて工業的な部品は今では暗殺ドロイドの顔にしか見えず、唯一無二のキャラクターとして個性を確立している。


 ドロイドの賞金稼ぎはもう一体いる。4-LOMはC-3POのようなドロイドの体に、不気味な昆虫型の頭部がついているのがおもしろく、3POと同じ細腕で物騒なライフルを持っているアンバランスさもいい。昆虫頭のドロイドは前作にもデス・スター・ドロイド(邪悪な宇宙要塞に配備されているからそう呼ばれる)が登場するが、それとも若干異なる顔つきだ。画面ではほとんど見つけられないものの、酒場の客には『ハエ男の恐怖』のハエ男そっくりな昆虫頭のエイリアンが紛れており、こちらの頭部のほうが4-LOMに近い。 


 4-LOMの生きた相棒ザッカスもやはり昆虫顔だが、この二体のキャラクターは顔がよく似ていたため、ケナー社のアクション・フィギュアのパッケージの名前が逆につけられてしまうという有名なミスも起こった(まだファンにとって資料の少ない時代にフィギュアの名前は重要な情報であり、1989年にルーカスフィルムが訂正するまでドロイドがザッカスでエイリアンのほうが4-LOMだと広く認識されていたという)。


 ザッカスのデザインは作品全体のコンセプト・アーティストのラルフ・マクォーリーと、件の酒場の客のスケッチを多く描いた衣装デザイナーのジョン・モロが手掛けた。モロの描いた酒場の客のスケッチは非常に簡略な線画だが、のちに出来上がる着ぐるみや衣装の原型を見出せ、そこには前述の「ハエ男」ことティズィズヴィットと思われる姿もあり、ずんぐりとした長衣の人物など、ザッカスのルーツも感じられる。昆虫型のドロイドやエイリアンはSWによく登場するが、これは昆虫型の異星人(往々にして野蛮で凶悪なクリーチャーとして)が古典的なスペースオペラやパルプSF作品を象徴する存在だからでもあるだろう。


 ボバ以外では唯一の人間であるデンガーには酒場の客との関連は見られないが、彼が身につけているのは帝国軍のストームトルーパーやスノートルーパーのアーマーで、手に持っているライフルも帝国軍のものだ(IG-88や4-LOMもトルーパーのライフルを持っている)。使い回しと言ってしまえばそれまでだが、装備の支給や放出といった世界観のディテールを感じられる。


 それにボスクやIG-88といった魅力的なキャラクターを生み出したこれらの工程は、単なる使い回しで片付けることはできない。SWオリジナル三部作の魅力ひとつは手作り感にあるが、すでにあるものをうまく利用して新しいものを作り出すという創意工夫もまた、新しさと細かいディテール、生活感に溢れるSW銀河を支えていると思う。酒場やバウンティ・ハンターという概念はどちらも西部劇の世界観が参照元で地続きになっているし、そのほかのキャラクターやモチーフ、特殊効果や撮影技法が前作から一段とアップグレードされているように、『帝国の逆襲』では銀河のならず者も酒場の客から賞金稼ぎへと進化しているというわけだ。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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