1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『アンダードッグ』監督:武正晴 × 脚本:足立紳が体現する、「主人公にならない人物に光を当てる」矜持【Director's Interview Vol.97】
『アンダードッグ』監督:武正晴 × 脚本:足立紳が体現する、「主人公にならない人物に光を当てる」矜持【Director's Interview Vol.97】

『アンダードッグ』監督:武正晴 × 脚本:足立紳が体現する、「主人公にならない人物に光を当てる」矜持【Director's Interview Vol.97】

PAGES


主人公にならない人たちに光を当てたい



Q:いまお話しいただいた「日常の積み重ね」の部分、例えば晃がサウナでバイトしているシーンでも、前編と後編だと全く意味合いが異なってきますよね。シビれる演出でしたし、前編でじっくり日常を描いて、布石を打っているからこそだと感じました。


武:そもそも人の生活って、大きくは変わらないですよね。例えば、みんな毎朝同じ時間に家を出て会社に行く。ただ、“何か”は日々違うはず。一見ドラマが生まれないように思えるけど、そこに敢えてドラマを生み出すのが今回の狙いで、だから本作に副題を付けるなら「あるボクサーたちの日常」だと思っているんです。


あまり大げさじゃない日常、普通だったら主人公にならないであろう人物を足立さんが主人公にしてくれて、それをどうやって盛り上げていくか考えるのが、すごく好きで面白かったです。


考えてみれば、俺たちはすでに『百円の恋』で、主人公にならない人を主人公にしちゃってますからね。そこに光を当てるのは映画作りの醍醐味だし、いつも撮りながら「何が何でも映画の中では、いい主人公にしてやらなきゃいけない」と思うんです。


 


Q:狙い、というところでいうと、今回はネグレクトの問題や奨学金返済の生活苦、半グレ等々、社会的な題材も入り込んでいますよね。


武:どっちかっていうと、配信ドラマ用の最初の脚本には、もっとたくさんその描写があったんですよ。映画は主人公を中心につなぎましたが、配信版ではもうちょっとデリヘル嬢の明美(瀧内公美)やお店の人々の物語が繰り広げられます。


足立:いま挙げてくださったことも、今日だと日常茶飯事で、社会に転がっている。そういうものと、中途半端に生きているボクサーが出会ってほしかった、という思いはあります。


武:映画の主人公って、あるカテゴライズを作っちゃうと、日常と交わらないままドラマが展開されることが多いんですよね。


ボクサーがずっとボクシングをやっているわけじゃないし、俳優さんだってそれぞれ人間としての生活をしているわけです。だから、絶対に日常とはすれ違うはずなんです。


主人公が主人公だけの世界で生きないのが、足立さんの書くシナリオの面白さ。だって、主人公がいようが世界は変わらない。テレビでは世界の情勢が流れているし、主人公が何をしようが、当時はトランプがアメリカの大統領じゃないですか(笑)。そういうものをもっと映画の中で観たいなというのが自分の願望で、僕らの知っている世界に主人公を置きたいんですよね。


だから本作にも、足立さんや僕の日常や視点が入っています。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『アンダードッグ』監督:武正晴 × 脚本:足立紳が体現する、「主人公にならない人物に光を当てる」矜持【Director's Interview Vol.97】