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『アンダードッグ』監督:武正晴 × 脚本:足立紳が体現する、「主人公にならない人物に光を当てる」矜持【Director's Interview Vol.97】

『アンダードッグ』監督:武正晴 × 脚本:足立紳が体現する、「主人公にならない人物に光を当てる」矜持【Director's Interview Vol.97】

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「足立紳は天才」と、武監督が確信する理由



Q:お話を聞いていて、ここまでフィーリングが合うのはある種、監督と脚本家の理想の関係性なのかなと思いました。


足立:先ほどのお話と重複しますが、やっぱり書いてきたことを説明するのって、脚本家にとっては結構ストレスなんです(苦笑)。武さんはそれが全くないんですよね。


武:でも、僕にも理解できないセリフはありますよ。ただ、「これは足立さんから与えられた試練で、何か意味があるはず」と考えています。そしてある日、その意味が分かるんですよ。そして、「足立紳は天才だった」と思うわけです。


足立:いやいや……(笑)。


武:いや、本当だよ。


足立:きっと普通の監督さんだったら、わからないところは切ろうとすると思うんです。でも武さんは、「何かシナリオライターが考えてるんじゃないかな?」と思ってくれる。


武:わからないものが出てきたときに、「しめた」と思いますね。『アンダードッグ』でも2つくらい、そういうセリフが残っています。画になったときに、意味が効いてくる。


よくわからないセリフだと、演者も「なんでこんなことを言うんだろう?」と考えますよね。「これはきっと、足立紳が何か言わせようとしているに違いない」とみんなが思うわけです。そうすると、すごい芝居になるんです。もう演出なんていらないですよ。今回も、編集をやってて「そうだったんだ!」と悲鳴を上げました(笑)。それで編集を変えましたね。


だからわからなくても簡単にスルーしないで、「何かこれは足立さんからの指令に違いない」と思うんです。セリフが「……」であっても、すごく考えますね。何も書いていないってことは、何かをしろってことだぞと。それがすごく楽しい。


その面白さを、俳優もスタッフもだんだんわかってきているから、「また足立が仕掛けてきたぞ」となるんですよね。そしてある日不意に、“意味”が降ってくるんです。それは監督が見つけることもあれば、カメラマンや演出助手、演者が見つけることもある。みんなが脚本に向かって、考えているから起こるんですよね。そして「足立紳は天才だ」と思うわけです。


 


足立:そんなことないです……(苦笑)。


武:でも、ホンを読んですぐは「天才だ」と言わないですよ(笑)。映画が出来上がってからみんなでしみじみ、「天才だった……御見それしました」と言います。今回はそれが2つありました。


足立:どのセリフなんだろう……。


武:言わないよ、ネタバレになるから(笑)。でも、文字で読んでいたときにはこんな風になるとは夢にも思わなかった。それはやっぱり、森山さんや瀧内さんといった俳優の力ですね。


足立:俳優を通した途端に、思いもしないぐらい輝いちゃうセリフがたまにありますよね。こっちは決めゼリフとして書いていなくても。


武:そう、決めゼリフじゃないんですよ。見過ごしてしまいそうな、「なくてもいいんじゃない?」って言いそうな言葉が、輝く。これが映画作りで一番面白いところかもしれない。


足立:この『アンダードッグ』については、決めゼリフがない映画だとは思っていますね。


武:そうそう。日常で輝くことがあるわけだから、セリフで名言を作る必要はないんですよね。



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監督:武正晴

1967年生まれ、愛知県出身。明治大学在学中に映画研究会へ所属し、自主映画を多数制作。卒業後、映画業界へ。工藤栄一、崔洋一、石井隆、中原俊、井筒和幸など、数々の名監督の助監督を務める。2007年『ボーイ・ミーツ・プサン』で監督デビュー。2014年、唐沢寿明主演の『イン・ザ・ヒーロー』を監督。同年、安藤サクラ主演の『百円の恋』を監督し、第39回日本アカデミー賞優秀監督賞、最優秀主演女優賞など、国内外で数多くの賞を受賞した。近年の主な監督作品は『嘘八百』(18)、『銃』(18)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20)、『銃2020』(20)『ホテルローヤル』(20)がある。Netflixドラマ『全裸監督』(19)では総監督を務め大きな話題を集める。



 


原作・脚本:足立紳

1972年生まれ、鳥取県出身。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作『百円の恋』が2014年映画化される。同作にて第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。同作と『お盆の弟』で第37回ヨコハマ映画祭脚本賞受賞、NHKドラマ『佐知とマユ』で第38回創作テレビドラマ大賞受賞、第4回市川森一脚本賞受賞。その他の脚本作品に『デメキン』(17)、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)、『嘘八百』(18)、『こどもしょくどう』(19)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20)など多数。16年『14の夜』で監督デビュー。原作、脚本、監督を手がけた『喜劇 愛妻物語』(20)が第32回東京国際映画祭最優秀脚本賞受賞。著書に『それでも俺は、妻としたい』(新潮社)、『喜劇 愛妻物語』(幻冬舎)、『弱虫日記』(講談社)などがある。



取材・文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema





劇場版『アンダードッグ』

11月27日(金)よりホワイトシネクイント他にて[前・後編]同日公開

※配信版『アンダードッグ』は、ABEMAプレミアムにて2021年1月1日~配信開始

 配給:東映ビデオ

(C)2020「アンダードッグ」製作委員会

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