『ヤクザと家族 The Family』に詰め込んだ信念と美意識。そして、A24挑戦の夢――藤井道人監督が語る、過去・現在・未来【Director's Interview Vol.104】
「人間の心・感情を描く」が出発点
Q:創作物で描かれる「ヤクザ」という存在はどこかファンタジー要素が強いものも多いですが、藤井監督の中ではリアルな、生きている人々としての感覚があったのですね。
藤井:それはありますね。あと、映画人とどこか似ている部分もあるんですよ。僕らもある種、社会からこぼれ落ちてしまって、映画しか社会と接点を持つ手段がない(笑)。そういったところにシンパシーを覚えているからこそ、この題材に至ったのだと思います。
Q:となると、日本映画史において連綿と受け継がれてきた「やくざ映画」のテイストとは違ったものになるだろう、という意識は初めからあったのでしょうか。
藤井:ありましたね。白石和彌監督が『孤狼の血』(18)で、本来の「やくざ映画」を現代の自分の解釈や語り口で描いているのを観て、僕もそのゾーンをやってしまったら、オリジナル性はどこにあるんだろうとなってしまう。白石監督へのリスペクトもあるからこそ、自分にしか書けないヤクザの姿を追求しなければと思っていました。
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
そこに『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)でも描いている「家族」という要素を掛け合わせて、『ヤクザと家族 The Family』の骨格が出来上がっていきました。
Q:家族、もっといえば「疑似家族」というテーマは、『デイアンドナイト』(19)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』、『ヤクザと家族 The Family』に共通するテーマですね。
藤井:本当だ、いま丸裸にされている気分です(笑)。
僕にも家族ができて、でも「藤井組」という“家族”もいるんですよ。そして、自分たちで作った「BABEL LABEL」というチームもあって、それぞれに違う形の愛情があるんです。そういったことがあるから、自分の中で「つながる」「家族」というテーマへの意識が強まっていったのかもしれないですね。
30代以前に書いていたものは、「震災」というものへの意識が強かったように思います。そこからようやく自分自身の言葉を持つことができるようになって、『新聞記者』を経てまた新しいフェーズに入ってきたのかもしれません。