『ヤクザと家族 The Family』に詰め込んだ信念と美意識。そして、A24挑戦の夢――藤井道人監督が語る、過去・現在・未来【Director's Interview Vol.104】
意味のないつらさが、まだ業界内にはいっぱいある
Q:BABEL LABELとしても、藤井監督は後進を積極的に育成しているイメージがあります。その辺りの想いをぜひ、お聞かせください。
藤井:自分が映画作品や映画に関わる人たちに教わったことを、自分だけが享受して有名になっても意味がないし、その山って登っても何も面白くないと思うんです。自分より良い監督が出てきたらちゃんとそこに拍手をしたいし、負けないぞって気持ちで頑張るようなライバルを探しているところはあります。
自分の20代って、本当に自分しか乗り越えられなかったんじゃないかというくらい、きついことも多くて、みんなにあんまりこういう思いをさせたくないという思いもあります。意味のないつらさが、まだこの業界にはいっぱい残っていると思いますし、それをちゃんと意味のあるものに変えていく必要があるんじゃないのかなとも感じます。
体は一個だから、全然できてない部分もありますが、やりたいと思う気持ちだけは持ち続けていたいですね。いまはライバルに塩を送りまくって、切磋琢磨していきたい、みたいな楽しみはあります。僕自身がたくさんのことを先輩から教わってきたので、ちゃんと還元できる存在になりたいですね。
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
Q:いまの時代、クリエイター志望の若者たちがネット上で“格上”を見過ぎて、挫折してしまうという話をよく耳にしますが、藤井監督はいまの時代のクリエイター生存論をどう捉えていますか?
藤井:多いですよね。それは、僕らの時代からあったように思います。映画愛が強すぎて、「これじゃフェデリコ・フェリーニに顔向けできない」って苦しんでいました。
僕は、人に笑われることを何とも思ってなかったから、撮り続けられたのかもしれません。大学時代は「藤井ちゃんが監督できるわけないじゃん」ってすごく言われていたし、僕も「だよね」って返していました。自分自身が、監督にはなれないと思っていたんです。でも、やり続けていれば自信が付くこともあるし、継続することで自分を肯定してきた時期がありました。
これはすごく思うんですが、1作目がいい出来なわけがないんですよ(笑)。それを悔しいと思えたから、今村も僕も続けられたんだと思います。大学3年のときにふたりで作った映画があまりにも微妙で、悔しいから7Dカメラを買って研究しまくって、カラコレや録音ができるようになって、どんどんスキルを習得していって……その積み重ねなんですよね。
撮ることに体が向かない人は、無理して撮る必要はないと思います。もし撮って、悔しいと思ったら、次また撮ればいい。僕個人は、「下手だからこそ上手くなる」と思っています。