役者自身が作り出すキャラクター設定
Q:原作が漫画だけに、それぞれのキャラクターはかなり誇張されていたかと思いますが、いい意味で各々振り幅があって面白かったです。各キャラクターの調整も監督から具体的に指示されたのでしょうか。
本広:基本は役者に考えさせますね。各々が考えてきたことを聞いてみて、物語の行動軸と合わない場合は調整します。例えば科学部の吉元役の濱田龍臣君は、運動部でもないのに仲間の救出部隊に参加するのですが、「どうして科学部の子が救出部隊に入るんだろうな」って、その行動原理を、濱田君と二人で考えたんです。結果「捕まった生徒の中に好きな子がいて、その子を助けたいから行く」ということになりました。だから、科学部が準備で爆弾を作ってるときに、実は濱田君だけ何故かずっと花を作っているんです。
Q:あれ?そうでしたっけ。全然気づきませんでした。
本広:2回目観直したらめちゃくちゃ笑えますよ。その作っていた花で、薙刀部の主将の女の子に、どさくさ紛れて告白するという(笑)。手品のようにポンッとバラを出すんですけど、あれは『ルパン三世 カリオストロの城』(79)みたいにってお願いしてたんです。
濱田君は手品の練習を相当やってくれていて、本番ではポンッと1発で出したから、現場からは拍手が巻き起こりましたね。ああいうほっこりするシーンは入れたくなるんですよね。
©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 ©笠原真樹/集英社
Q:その一連の設定は脚本には書かれていたのですか?
本広:そこは書かれてないですね。役者たち各々が考えてきたキャラクターの設定は脚本には書かれてなくて、撮影前に決めたものが多いです。科学部の小暮はずっとチュパチャップスを舐めてますが、あれも演じた草野君本人からの提案です。最初は採用しようかどうか悩んだのですが、昔のアメリカ映画でよくあった、チョコバーみたいなもんだなって採用しました。
Q:『グーニーズ』(85)に出てくるチャンクみたいな感じですよね。
本広:そうそう。そうやって採用すると、役者も「マジいいんすか!」ってノッてきて、もっと面白いことを考えてくれますね。
Q:映画全体が個性豊かなキャラクターで溢れていて、それぞれに思い入れができるくらい、みんな目立ちますよね。それでも真剣佑さん演じる西野は存在感では揺らぎがない。その辺は、どのようにバランスを取るのでしょうか。
本広:各キャラクターが浮き彫りになってくると、彼らを主人公に反射させていくんです。その方法が一番観やすくなると思っています。僕は今まで散々群像モノを撮って来たので、そこと映画を2時間以内にまとめる方法は身につきましたね。
ただ、今回は出演者が異常に多かったので、危うく2時間を超えるところでした(笑)。今回はエンドロールも長くて5~6分あるんですよ。それも合わせて何とか1時間56分に収めました。
特に今回のエンドロールは感慨深いですね。きっと売れっ子になっていく役者さんたちの名前が刻まれているわけですから。出演した子たちが自分の名前を見つけて喜んでいるのを見ると、一番感動しますね。この映画が彼らの人生を変えるかもしれません。学生モノの群像劇って、そこも楽しみの一つですね。
ヒットすると、みんなのステージが一斉にガンと上がるのを『踊る大捜査線』で経験しているので、映画で人生が変わるというのはよく分かるんですよ。あの時はその後ほぼ全員が売れましたからね、スリーアミーゴス(北村総一朗、斉藤暁、小野武彦演じる湾岸署管理職三人組)にCMオファーまで来てましたから。その体験がずっと体に染み付いてるのかもしれません。