行間を読む力の重要性
Q:『踊る大捜査線』テレビ放送や劇場版第1作目からは、もう20年以上が経ちますが、本広監督は当時はまだ結構若いですよね。
本広:32歳くらいでしたね。もうしびれるぐらいに毎日ドキドキしながら過ごしてました。すごい俳優たちがいっぱいいて、その人たちと戦った経験があるから、それ以降は何をやっても大したことないって思えましたね。
当時はディレクターズチェアに全く座れませんでしたから。現場では常に誰かしらから質問が来るので、それを必死に打ち返してると、もう座る暇がないんです。いかりや長介さんからも「君はほんとに座らないね」って言われちゃって、いかりやさんにそういうところ見られていると思うと、余計に座れなかったですね。
Q:キャリアの初期にあれだけ大きな経験をすると、その後に大きく影響しますよね。
本広:当時鍛えられたその思いを伝えたいなと、今は演出部(助監督)をいっぱい入れてもらって、みんな一人一人に何がベストかを考えて仕事をしてもらってます。だから、本広組を通過した助監督さんってみんな売れてるんですよ。トップクラスばかりですね。
Q:羽住監督なんて、超売れっ子ですよね。
本広:羽住監督は自分の演出と似てるなと思いつつも、彼の映画の方が爆破シーンとかいっぱいあって、結構派手ですよね。今度、真壁幸紀って監督が『すくってごらん』という映画でメジャーデビューするのですが、ちょうどこの『ブレイブ-群青戦記-』と公開日が同じなんですよ。よりによって何で同じ日なんだって思いましたけど(笑)、でもそういうのもいいですよね。助監督だった人たちがみんな売れて幸せになっていくのは嬉しいですね。
©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 ©笠原真樹/集英社
Q:どの映画制作の現場も大変だと思いますけど、特に本広作品の場合は大作が多いので、そういう意味でも現場で使われる経験値は大きいのでしょうね。
本広:あるときから、監督が全てをやるのではなく、ある程度助監督たちに考えてもらって、その考えを聞いてまとめていくという方法を取っています。小道具1つとっても「なぜそれが必要なのか」、自分でその物語を考えた上で用意する。僕からもその小道具の存在理由を聞きますが、ただ何となく用意しましたという答えは全くないですね。各自が明確な理由を持っている。そういうやり方をすると、演出部に限らず美術部も、みんな育っていきますね。
Q:先ほど話された、役者さんたちのキャラクター設定と同じですね。
本広:脚本に書いてあるから行動するのではなく、なぜ自分は動くのか、行間をもっと考えようということです。濱田君はその辺がとても器用ですよね。彼はわざわざオーディションに来てくれてこの役に就きましたから。
Q:オーディションから受けたんですね。
本広:濱田くんは三谷幸喜さんの映画や舞台に出るような俳優ですからね。「三谷さんの舞台出てるのに、オーディション受けてもらって大丈夫?」みたいな感じでしたね(笑)。でもさすが、売れてる子たちって、立っているだけでも雰囲気があるんですよ。そうすると、スタッフもみんな「こういう道具を持たせましょう」とか、どんどんアイデアが膨らんでいくんです。