Ⓒ2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
『ホムンクルス』清水崇監督と解体する、「自分史上最もカッコいい」映画の内部【Director’s Interview Vol.112】
監督生活で一番カッコいい映画ができた
Q:画作りについても細かくお聞きしたいのですが、冒頭からトレパネーションで空けられた穴が螺旋階段につながっていくなど、スタイリッシュな画が続きますよね。色調や質感も独特ですし、音楽も素晴らしい。どのようにしてあの世界観を作っていったのでしょう?
清水:そこは本当にスタッフみんなの力ですね。特に照明の市川徳充さんは、職人でありながらアーティストなんですよ。すごく時間がかかるし面倒くさいんですが(笑)、すごいものを作ってくれる。今回は面倒くさいスタッフとキャストが揃いましたね。普通は監督が一番面倒くさいんじゃないの?と内心でぼやきながら(笑)、僕はこだわりまくるスタッフとキャストの間を行き来していました。だから大変でしたが、このメンバーだからできたことも多かったし、何より面白かったですね。
今おっしゃった「円」のイメージについては、実は脚本段階で「オープニングはこういうイメージで、穴の中を覗く目があって、タイトルに行きたい」と画のイメージを明確に伝えて、それを脚本の内藤瑛亮さんと松久育紀さんが汲み取ってくれて、「名越の過去に金環日食を見たときの記憶が介在していたらどうだろう」という原作にはないアイデアを出してくれたり、脚本を読んだ制作担当の高橋輝光さんが、円形のエントランスがあるマンションを探してきてくれたりしたんです。
僕から具体的にどうこう言わずとも、みんなが「監督の中で円がモチーフなんだろう」と感じて動いてくれたので、スタッフの協力なしには作り上げられませんでした。脚本を読み込めないスタッフだと「マンションであればいいですよね」となっちゃうんですが、『犬鳴村』(20)などで一緒に培ってきたものがあるから、脚本上に無いのに「監督、螺旋階段を上っていくプランはどうですか」と提案してくれるんですよね。だから、僕だけの力ではないんです。
これまでも共通するモチーフを作品の中に混ぜ込むことはしてきたのですが、初見だとわからないレベルだったんですよね。今回はスタッフのおかげもあって、わかりやすくかつ洗練されたものにできました。
『ホムンクルス』Ⓒ2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
Q:素晴らしいお話ですね。まさに、全員が創意工夫を凝らした現場だったのですね。
清水:もちろん、音楽もそうです。常田大希さん率いるmillennium paradeの音楽で、ぐっと世界観が引き立ちました。そういう意味では、20年近く監督をやってきた中で一番カッコいい映画だと思います。
実は『リング』(98)の中田秀夫監督と、昔こういう話をしていたんです。「その時代時代で当時のシーンを代表するような、それこそポスターを飾りたくなるようなカッコいい映画がある。でも『呪怨』(03)や『リング』を作っている俺らには、一生縁がないだろうね」って(笑)。でも今回初めて、「これはカッコいいんじゃないか……?」と思えました。
Q:おっしゃる通り、皆さんのこだわりがあってこそ抜群にカッコいい作品になりましたし、観ているうちに感性が刺激されて、それこそ第六感が目覚めるような感覚になりました。
清水:なんて嬉しい言葉なんだ。そう言っていただけて、すごくありがたいです。
この映画を観たことで人との接し方や世の中に対しての感覚が変わるというか、研ぎ澄まされるようになってくれたらなと思って、作りました。
Q:ちなみに今回は、イメージボードのようなものを用意されたのでしょうか。
清水:美術の寒河江陽子さんに脚本の情報とイメージを伝えて、それを基にスケッチを描き、デザインを起こしていただきました。装飾をやってくれた方は、劇場版の『呪怨』でタイトルづくりなどを協力してくれた方なんですよ。20年ぶりくらいに一緒に仕事したんですが、すごい飾り込みにしてくれました。