Ⓒ2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
『ホムンクルス』清水崇監督と解体する、「自分史上最もカッコいい」映画の内部【Director’s Interview Vol.112】
記憶も感情も失い、車上暮らしを送る男。彼はある日、頭蓋骨に穴を空ける「トレパネーション」という手術を受けたことから、他人の深層心理が視覚化された“ホムンクルス”が見えるようになる――。
人気漫画家・山本英夫氏が作り上げた奇異なる世界が、このたび実写映画化されることになった。メガホンをとるのは、山本氏とも親交のあった清水崇監督。綾野剛・成田凌といった人気実力派を迎え、映画『ホムンクルス』として4月2日に劇場公開を迎える。
『ヤクザと家族 The Family』(21)の力演が記憶に新しい綾野が、「見えないものが見えるようになる」能力が発動した主人公・名越を圧倒的な存在感で演じ切れば、『まともじゃないのは君も一緒』(21)や『くれなずめ』(4月29日公開)など出演作ラッシュの成田が、名越を引きずり込む研修医・伊藤を狂気の怪演で魅せる。
さらに、劇中音楽・メインテーマを担当するのは、「King Gnu」の常田大希が率いる音楽集団「millennium parade」。彼らと清水監督のコラボレーションは、まさに劇薬。冒頭から音楽・演技・映像が最大出力で畳みかけ、観る者の脳髄を刺激することだろう。
ひたすらに「カッコいい」映画を生み出した清水監督だが、自身の中でも「これまでとは違う」という手ごたえを得たという。実力者たちが多士済々だった現場で、何を掴んだのか。単独インタビューで、その舞台裏に迫る。
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描写にブレーキをかける必要は感じなかった
Q:清水監督は原作の「人の精神面を可視化してくれている」部分に惹かれた、とおっしゃっていましたが、作品との出会いはどのようなものだったのでしょう。
清水:原作者の山本英夫さんが本作を連載中に、週刊ビッグコミックスピリッツの誌上で対談したんですよ。その際にコミックスをいただいて、そこから読み始めましたね。年齢もそんなに離れていないし、対談をきっかけに仲良くなり一緒に飲みに行くようになって、「映画化されることがあったら監督をぜひお願いしたいです」「えっ俺でいいんですか」なんて軽く話をしていたんです(笑)。
『ホムンクルス』の企画プロデューサーは、山本さんが原作の映画『殺し屋1』(01)も手掛けた宮崎大さんなのですが、連載前から「次はどんなのを始めるの?」と目をつけていたらしいんです。それで連載が始まって、やっぱり映画化したいと彼が小学館に打診して……。動き出したのは、それくらいのタイミングからですね。
『ホムンクルス』Ⓒ2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
Q:本作だと企画段階で劇場公開後のNetflix配信が決まっていたそうですね。そうした座組は、画作りに影響を与えたのでしょうか。
清水:基本的にはそこまで影響は受けていないのですが、ただ僕がこれまで作ってきたのは劇場映画が多かったから、劇場公開と配信の両方となったときに、画や音をスクリーンとモニターと両方でチェックする必要は生じてきましたね。音のボリュームや色味など、各家庭のテレビによって変わってしまうし、パソコンやスマートフォンで観る方もいるだろうし、そこにどう取り組んでいくか。
この部分については、撮影部や照明部がものすごくこだわって作ってくれる人たちだから、かなり話し合いましたね。Netflixでの配信用の音のレンジや色味について、通常のモニターでどれくらいちゃんと出るのかのチェック作業は、普段の劇場映画よりも何倍もかかりました。まぁでもこれは、僕らがこだわりまくったからですけどね(苦笑)。
Q:描写に関しては、いかがでしょう? 配信だからこそ攻められた、といった部分はありましたか?
清水:その意識はなかったですね。原作自体が抉(えぐ)らないでどうする!?という題材ですし、当初から必要なこととして受け止めていました。それに、暴力やセックス描写が“売り”の作品でもないですしね。その先にある“精神”が本当のテーマだから、ブレーキをかける必要性を感じませんでした。
原作にはあったけれど、プロデューサー陣の意見を聞いてやらなかった部分はあります。ただそれも、表現が過激だから抑えてほしいというよりは「単純に不快だ」というような観点だったので、ブレーキとはまた別なんですよね。