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『Mr.ノーバディ』イリヤ・ナイシュラー監督 中年男が痛みと暴力によって人生を取り戻すユニークなバイオレンス映画【Director’s Interview Vol.121】

© 2021 UNIVERSAL STUD

『Mr.ノーバディ』イリヤ・ナイシュラー監督 中年男が痛みと暴力によって人生を取り戻すユニークなバイオレンス映画【Director’s Interview Vol.121】

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「普通の人かと思ったら実は凄腕暗殺者でした」系の映画は、今や一つのジャンルとなった。『96時間』(08)『イコライザー』(14)『ジョン・ウィック』(14)『エージェント・ウルトラ』(15)など、これらはすべてその「ジャンル」に属している。その醍醐味は、人畜無害な一般人として暮らす主人公が、あるきっかけで覚醒し、暗殺者の超絶技巧で、悪党どもを容赦なくなぎ倒していく爽快感にある。


重要なのは、主人公がいかにも普通で強そうに見えないこと。そうすることで、殺人マシンとして覚醒した後のアクションが際立ち、映画にドライブ感が生まれるのだ。その新たなお手本となることに成功したのが本作だ。


海外ドラマ「ベター・コール・ソウル」でもお馴染みのボブ・オデンカークは「サタデー・ナイト・ライブ」出身のコメディアン。一見ひ弱そうな彼が主人公ハッチに扮し、50代半ばとは思えない、シャープで力強いアクションを全編にわたって披露する。オデンカークはなんと2年もの間、徹底的にトレーニングに励み、殆どのシーンをスタントなしでやりきったのだ(彼はジャッキー・チェンの映画が大好きらしい!)。


さらに本作が優れているのは、主人公が父、夫として、家族との関係に苦悩する姿を丁寧に描き、物語に奥行きを持たせていること。さらにアクションもシーンごとにテーマ性を持たせ、一辺倒に陥っていないことだ。これらの美点によって、本作はこのジャンルの映画では珍しいカラフルな映画体験を提供することに成功している。


本作を監督したのは、全編一人称視点という前代未聞のアクション映画『ハードコア』(15)を作り上げたイリヤ・ナイシュラ―。


オデンカークとタッグを組んだ彼は、いかにしてカラフルなアクション映画を実現したのだろうか。


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「依存症映画」としてアプローチ



Q:平凡に暮らす殺し屋が、あるきっかけでまた暴力の世界に戻っていく、という筋立ての映画は『ジョン・ウィック』や『イコライザー』などいくつもあります。本作は、それらとは少し違った手触りの作品に仕上がっていますね。


ナイシュラ―:まず脚本が僕のもとに送られてきて、すぐに興味をひかれました。その後主演のボブ(・オデンカーク)やプロデューサーたちと電話で話をしたんですが、その時こう伝えました。「この映画はすごく特別だ。なぜならアディクション(依存症)の人について描いているからだ」と。


彼が再び暴力の世界に戻っていくのは、自分の愛犬が殺されたとか、娘が誘拐されたとか、そういった理由ではなく、実は前の生活(殺し屋)に戻りたがっているからなんです。


主人公は今の生活には満足しておらず、以前の自分に戻るための言い訳を探していたのではないか、そういう内面の葛藤が、この種の映画ではすごく珍しいという意味で、特別な映画だと思います。



『Mr.ノーバディ』© 2021 UNIVERSAL STUD


Q:ナイシュラー監督は脚本ができあがった後に参加されているわけですが、監督自身のアイデアは、どの程度作品に反映されているのでしょうか。


ナイシュラ―:撮影に入る前、2018年から2019年にかけて、ボブと脚本のデレク(・コルスタッド)に僕が持っていた色々なアイデアを話しました。もともとボブたちも、自分のアイデアをどんどん出してくれる監督を求めていたんだと思います。だから私のアイデアも取り入れて、彼らと一緒に脚本のリライトに取り組めました。




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