© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film
『スーパーノヴァ』ハリー・マックイーン監督 コリン・ファース、スタンリー・トゥッチで表現した究極の愛のかたち【Director’s Interview Vol.123】
映画ファンの間でも、その名前はそれほど有名ではない。しかし突如として、堂々たる演出で注目を浴びる監督がいる。ハリー・マックイーンは、そんなパターンではないだろうか。長編2作目となる『スーパーノヴァ』は、長年連れ添ったパートナーとの最後の日々を、ロードムービーとしてつづっていく。イギリスの田園風景をバックに、ピアニストのサムと作家のタスカーが、家族や懐かしい友人たちと再会しながら、自分たちの運命と向き合う物語。
サム役にコリン・ファース、タスカー役にスタンリー・トゥッチという名優を起用し、究極の愛のかたちを徹底して繊細に、そしてこれ以上なくエモーショナルに表現したマックイーン。もともと俳優としてキャリアをスタートさせた彼が、どんな思いを込めてオリジナルの脚本を書き、最高クラスの俳優たちと現場でどう渡り合ったのか。ロンドンのマックイーンにオンラインで話を聞いた。
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同性カップルであると「意識させない」試み
Q:愛する相手との最後の時間を過ごすという、これまで多くの作品で描かれてきたテーマですが、『スーパーノヴァ』は男性同士のカップルというのが斬新です。
マックイーン:たしかにこの設定は独創的に感じられるかもしれません。でも主人公2人がゲイのカップルであるという要素は、脚本を執筆しながらほとんど意識しなくなりました。あくまでも彼ら個人としての、あるいはカップルとしての経験にフォーカスしており、物語の中でセクシュアリティについて言及されることはありません。設定としてオリジナリティを重視しつつ、そこにとらわれない映画にするというのが、今回の僕の目的でした。
Q:主人公2人の旅に始まり、家族や友人との再会、その後……と、脚本も美しい構成になっています。
マックイーン:構成について、そう感じてもらえるのは、ちょっと意外です。今回の脚本はストーリーを劇的に伝えることを重視し、全体の構成をほとんど考えなかったからです。でもおそらく、ストーリーをきちんと伝える作品は、3幕、あるいは5幕のスタイルになりやすいんじゃないでしょうか。この作品はロードムービーであり、キャラクターの心の旅であるので、美しい3幕構成に「なってしまった」のだと感じます。興味深い結果ですね。
『スーパーノヴァ』© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film
Q:最終的に、あなたが書いた脚本どおりの映画になったのでしょうか?
マックイーン:一般的に言って、1本の映画を作るときは、創作過程で最低でも3回の変化が生じると思います。つまり脚本、撮影、編集ですね。でも僕にしたら、その変化の瞬間は1,000回くらい起こっている感覚です。
Q:ということは、セリフも含め、だいぶ変化したということですか?
マックイーン:いや、そういうわけでもありません。セリフについては、ほぼ脚本に書かれたとおりです。予算も少なかったので、たとえば使う車種を変更するとか、そういったこともできませんでした。ただ、この映画の場合、脚本は90ページにも満たない短さで、つまりセリフとセリフの“間”が、撮影とともに有機的に変化していったのです。200ページの脚本を書いていたら、ディテールも大きく変わらなかったでしょう。ざっくりとした脚本だったので、そのとおりになったとも言えるし、変化したとも感じられるのです。