© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film
『スーパーノヴァ』ハリー・マックイーン監督 コリン・ファース、スタンリー・トゥッチで表現した究極の愛のかたち【Director’s Interview Vol.123】
自分の物語が伝えられない、俳優としての葛藤
Q:『僕と彼女とオーソン・ウェルズ』(08)など、俳優として活躍していたあなたが、こうして映画監督として成功したわけですが、もともと撮る側を望んでいたのですか?
マックイーン:そうですね。キャリアの初期から、いつか自分で映画を撮りたいという願望はありました。5〜6年、俳優の仕事を続け、俳優という職業は、自分の伝えたいことを表現するわけではないし、作品をコントロールできないことを思い知らされ、フラストレーションもたまっていきました。どうしても自分の物語を伝えたくて、監督の経験もないのに、無謀にも低予算で長編映画にチャレンジしたのです。そうしたらその作品『Hinterland』(15)が評価され、こうして2作目につながりました。本当にラッキーだったと思うしかないです。
Q:監督というものは、自作にどれくらい自分を投影するものなのでしょう。
マックイーン:それぞれの監督によって、その度合いは異なると思います。ただ、僕のように脚本も自分で書く場合、人生や個性を注入してしまう。脚本に人生が乗っ取られる感覚も味わうでしょう。
『スーパーノヴァ』の場合、登場人物に近い状況の人々のリサーチに長い時間をかけた結果、自分自身から物語が分離していくのも事実です。ただ、脚本の段階でキャラクターを造形していくと、そこには僕自身の何かが宿っていくわけで、作品全体としては、監督を体現したものになっていくのではないでしょうか。
『スーパーノヴァ』© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film
Q:ということは、自分で脚本も書く映画監督に、シンパシーや尊敬も感じるのですか?
マックイーン:その傾向はありますね。いま最も好きな監督は、アメリカ人のケリー・ライカート。『First Cow』(20)など彼女の作品は、すべて夢中になりました。ミヒャエル・ハネケも理想の映画作家ですね。そして、あなたが日本人だから言うわけではありませんが、いちばん尊敬しているのは、小津安二郎です。黒澤明の作品からも学んだし、溝口健二や是枝裕和もそうですが、彼らの映画を観た後は、自分の中の何かが変わったと感じるのです。基本的に脚本を書く監督に惹かれますが、「視点」が明確な作品に多大な影響を受けていますね。
Q:あなたも監督として、作品を通して人々に影響を与えたいわけですよね?
マックイーン:たしかに映画は、大げさにいえば世界を変える役割も果たします。見知らぬ人に自分の主張を見せるというのは、ある意味で、政治的行為ですから。僕自身、映画によって人生に大きなインパクトを与えられたこともあるので、監督の責任は重大ですよね(笑)。
Q:影響という意味で、観る人に『スーパーノヴァ』で何を考えてもらいたいですか?
マックイーン:僕がこの映画を作ったのは、人生の終末や、終末医療に関して多くの人に論議してもらいたいからです。さらにLGBTQ+という少数派の声を伝えるという責任も感じました。イギリスを舞台にしていますが、そのメッセージが文化を超えて、どう伝わるかにも興味があります。これらのテーマについて、日本の観客が何を感じてくれるのか、心から期待しています。
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監督・脚本:ハリー・マックイーン
1984年1月17日、イギリス・レスター出身。ロイヤル・セントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマで演技を学び、リチャード・リンクレイター監督の『僕と彼女とオーソン・ウェルズ』(08)で俳優デビュー。2017年には『愛欲のプロヴァンス』でマドリード国際映画祭最優秀助演男優賞を獲得。2013年からは製作も手掛け始め、監督・脚本・プロデューサーとしてのデビュー作『Hinterland(原題)』(15)でレインダンス映画祭イギリス映画賞、北京国際映画祭デビュー映画賞など数々の賞にノミネート、本作『スーパーノヴァ』は脚本・監督を務めた2作目となる。
取材・文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
『スーパーノヴァ』
7月1日(木) TOHO シネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー
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