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『逆光』須藤蓮監督 割り切り過ぎている世界とその危機感【Director’s Interview Vol.127】

『逆光』須藤蓮監督 割り切り過ぎている世界とその危機感【Director’s Interview Vol.127】

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70年代を再現した美術と衣装、美しすぎる撮影



Q:いろんな思いを込めた映画は、とても美しく切り取られていました。晃と吉岡のおぼろげな関係性でさえも、その美しいショットの中に立ち上がってきているようでした。


須藤:ありがとうございます。


Q:撮影を担当された須藤しぐまさんの画力もすごいですよね。


須藤:彼とは8年くらい前からの知り合いで、普通に僕の友達なんです。写真家でペンキ屋でもあり、彼自身も自主映画を監督したりしていたのですが、とにかく画を切り取る才能がすごい。天才だと思います。


今回は、渡辺さんはもちろん、衣装の高橋さんと木和田さん、撮影のしぐまさんには全幅の信頼がありました。それはやはり、彼らの持つ圧倒的な美意識によるものですね。僕自身も、自分の部屋は汚いくせに、映画になったとたん面倒くさいくらいに細かくなるので、この4人が持つ美意識はとてもよく理解できるんです。


そんなこともあり、編集では自分が美しいと思うものだけをつなげていて、少しでも気に入らない画はどんどんカットしていきました。途中で渡辺さんに見てもらったのですが、「残酷なまで美に特化して編集している前半が面白い」と言われて、「あ、やっぱりこれでいいんだ」と思いました。自分が思う美的世界を立ち上げていくことに、すごく注力していたんだと思います。



© 2021『逆光』FILM


Q:自主映画で低予算の中、よく70年代を構築できたなと、そこも驚きました。


須藤:そこは本当に大変でしたね。でも別に現代的なビルが映ったとしても、70年代だって言い張って気にしないことにしていました。もちろん予算が許せば消しますけどね(笑)。でも、そういう技術を超えていく突き詰め方が出来ればと思っていたんです。


美術部の仕事もすごく信頼できて、みんな世界観の構築に対して高い意識がありました。衣装も驚くほど素晴らしかったですし、今回は衣装が担った部分は大きいですね。また、美術や小道具も一点一点細かく選ばせてもらいました。映画に出てくる蚊帳も、5〜6種類用意してもらって、実際にひとつずつ部屋にかけて色味を選んでいます。座布団の色から、蚊取り線香、たばこの吸い殻入れまで、画面には少ししか映ってないのですが、そういう細かい部分にも徹底的にこだわったことが、この映画の生命線だったのかなと思います。


Q:監督自身が主演なので、実際にカメラの前で演技をされているわけですが、現場での画作りや演出はどのようにされていたのでしょうか。


須藤:リハーサルの時は常に自分の前にiPadを置いて、画を確認しながら芝居していました。芝居については撮影に入る前に、みんなとある程度作り込んでいたので、現場では安心して任せることができました。後はとにかく画的なチェックに注力していましたね。


Q:驚くぐらい美しいショットがいっぱいあったのですが、監督は実際に出演しているし、どうやって画作りしていたのか不思議でした。


須藤:ありがとうございます。大変でしたけど、面白かったですよ。



© 2021『逆光』FILM


Q:予告にも少し出ていますが、冒頭のタイトルが出る前の岩場のショットなんて、本当に素晴らしいですよね。何て美しいんだと思いました。


須藤:僕もあのショットは一番好きですね。カメラマンがすごい才能の持ち主で、どこを切り取っても画になってしまうというのはあるのですが、でも画がどんなにバッチリ決まっていても、それが映画の中に意味あるものとして織り込まれていないと、美しいとまでは感じないと思うんです。


あそこは、丘の上と下で二人がそれぞれ歩いているだけのショットなのですが、それが二人の関係を物語り、日本の風景と夏を感じさせ、そして映画の始まりを予感させる。そしていきなり冒頭に来ることもあり、あのショットは映画の中で美しくなりえたのだと思います。まさに“That’s『逆光』”なショットですよね。


Q:ルカ・グァダニーノの『君の名前で僕を呼んで』(17)を観て感じた美しさと、似たような印象があったように思います。


須藤:僕も渡辺さんもカメラマンのしぐまさんも『君の名前で僕を呼んで』が大好きなんですよ。だから実は撮影前に、あの作品を見返して細かく分析しました。意外にひとつひとつのショットは普通なんですが、でもすごく美しくて、ものすごく夏を感じる。結果、これと同じことは自分には出来ないなってよくわかりましたけどね(笑)。





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