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『逆光』須藤蓮監督 割り切り過ぎている世界とその危機感【Director’s Interview Vol.127】

『逆光』須藤蓮監督 割り切り過ぎている世界とその危機感【Director’s Interview Vol.127】

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自分の悩みを消した「私たち」という主語



Q:渡辺あやさんが、須藤監督のことを「対象の潜在的な美点を見抜き、最大限に開花させる力という、卓越した才能の持ち主である」と書いていました。これは、人を指揮して動かすのが仕事である映画監督にとっては、最大級の賛辞だと思いますが、監督自身は周囲の人たちと、どのように接してきたのでしょうか。


須藤:僕に唯一特技があるとするならば、その人が最も得意とすることを見つけることなんです。その特技を利用して、キャスティングやスタッフィングをしたことが、うまくいっているのかもしれません。例えば、吉岡役の中崎君は声がいいから、間を取ってミステリアスに見せたら、ぐいぐい引き込まれるキャラクターになるよね。とか、前述の通り富山さんってこういうところがいいよね、とか、僕なりにその人の魅力を勝手に見つけていくんです。

 

みーこ役の木越明さんは、まだ役者としてはそんなに経験もないのですが、彼女がたまたまミュージックビデオの撮影に来ていて知り合いました。役を演じてもらいながらも、彼女の裏にある魅力を気付かれないように引っ張り出す作業が、とても面白いんです。渡辺さんに関しても同じで、普通に脚本を書いてもらいつつも、彼女が今まで書いたことのないものを引き出していく。そういう作業がたぶん好きなんですね。


今回の制作部(撮影現場の進行及び、予算管理含めた準備全般を司る部署)は、高校の頃の友だちにお願いしたんです。彼は、みんなでサッカーをやっていると、蹴飛ばしてどっかにいったボールを率先して取りにいったりとか、家でみんなと飲んでいると、いつの間にか皿を洗っていたりする。普段からそういうことがサラッと出来てしまう人間なんです。本人は勉強ができないって自分を卑下していたのですが、全くそんなことはなくて。むしろ彼の魅力を最大限活かす意味でも、今回制作部をお願いしたんです。そうすることで、縁の下の力持ちとして動いてくれて、彼が誰よりも魅力的に輝いて、みんなの尊敬を集める瞬間に立ち会うことができる。それって、お互い気持ちいいじゃないですか。



© 2021『逆光』FILM


衣装部に関しても、今回はあえてプロのスタイリストではなく、古着屋の友人にお願いしました。服にすごく詳しい人間が本気で映画の衣装に取り組んだらどうなるんだろう、自分は彼のすごい才能を知っているけど、それを世間に発表したらどうなるんだろうって、そういう喜びをひとつずつ丁寧に拾い集めて、映画にしていった感じですね。


Q:映画監督って特殊な仕事だなと思います。画家も小説家も作曲家も、基本は自分一人でコツコツと自分の世界を作っていきますが、映画だとなかなかそうはいかない。自分の世界を築き上げていくことと、たくさんの人を指揮することって、一見対極にあるような気がしてしまうのですが、でもそれを両立させるのが映画監督なんですよね。


須藤:今回すごく勉強になったのが、今まで自分一人で抱えていた悩みが、主語を「私たち」にした瞬間に消えたことです。これまでは、役者として成功しない、自分の表現がうまくいかないと、個人の悩みをいっぱい抱えて勝手に閉塞感に陥っていたのですが、結局それは、自分一人だけで幸せを享受しようとしていたからなんだと。


自分の悩みだけを抱えてしまうと、いつまでも自分は幸せになれないけど、他人の魅力を引き出して、その人が幸せを享受することで、実はより自分が幸せになれる。それは映画を撮って初めて気づきましたね。だから僕からすると、『逆光』という映画は、才能がある人たちを深く信じた結果なんです。


個人主義が広がっている今だからこそ、こういう考え方を広げていきたいとも思っています。人のために何かをすることのほうが、実は幸せなんだよねって。





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