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『逆光』須藤蓮監督 割り切り過ぎている世界とその危機感【Director’s Interview Vol.127】

『逆光』須藤蓮監督 割り切り過ぎている世界とその危機感【Director’s Interview Vol.127】

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『逆光』は文江の映画かもしれない



Q:個人的には、文江を演じた富山えり子さんが強く印象に残っています。


須藤:それはうれしいですね。


Q:この映画は、どこか幻想的な部分も併せ持ったような感覚があるのですが、そこを文江が地に足を着けて、現実に引き戻している気がしました。


須藤:この映画のバランスで言うと、僕が監督として作ったのが幻想的な部分だとしたら、渡辺さんが担当したのが、その地に足が着いている部分だと思います。だから文江の存在は、この映画における渡辺さんの存在と同義みたいなものなんです。


そういう意味では、富山えり子さんをどう魅力的に撮るかということは、今回大きな課題でした。富山さんを褒めていただけるということは、たぶん映画がうまくいっている証拠だし、渡辺さんとやった意義があるということですね。観た方の感想を聞いても、富山さんは人気があります。


Q:やっぱりそう感じる方は多いんですね。


須藤:晃や吉岡、みーこを魅力的に映すことは、考えつくのですが、そこに文江を配置することは、たぶん僕では思いつかないですね。でもそれが、この映画が簡単に崩れないようにするためには大事なことで、僕が渡辺さんに求めていたのは、その部分も大きいです。実は『逆光』は、文江の映画なのかもしれません。


© 2021『逆光』FILM


Q:確かにある意味では、そうかもしれませんね。


須藤:富山えり子さんみたいな、すごくいい芝居をする役者さんを、ただ三枚目として消費するのではなく、彼女の魅力をより発揮できる場を用意することは、今回やりたかったことでもあり、且つ自分一人では成し遂げられなかったことです。僕の中でハードルが高かったことの一つは、富山さんを撮ることでした。だから、富山さんが褒められるのは本当に嬉しいです。


Q:追加されたというエンゼルケアのシーンもとても良くて、おっしゃる通り文江がいることで、『逆光』を映画たらしめている感はありますね。


須藤:実はこの映画、最初は富山さん主演で撮りたかったんです。その後紆余曲折を経て、文江は物語上脇にまわることになったのですが、僕の意識の中では文江が主人公のまま残っていたこともあり、それでうまくいったのかもしれません。


文江は、晃・吉岡・みーこの曖昧な関係を含めて全てが見えている人間なんです。田舎で地味な生活を送っていて情報量も少ないはずなのに、それでもより多くのことを知っている。彼女はより深い視点で世界を見ることが出来る人なんです。それは生活に根差された視座だったりするのかもしれませんが、そういうものを持っている人間の美しさみたいなものが、撮れたらいいなと思っていました。


ただ、あまりに“美しさ”に囚われすぎてもだめで、そういう意味ではエンゼルケアのシーンは特に難しかったですね。リアリティが少なくなりがちな美しいビジュアルの中に、どれだけ深いリアリティを実現できるかで、この映画が成立するかどうかが懸かっていましたし、そこは渡辺さんにも忠告されていました。


とにかく丁寧に撮ろうと現場に臨みましたが、結果うまくいったと思います。それまでのシーンは、みんなでわいわい盛り上がって撮っていたのですが、あのシーンを撮ったときは、ほどよい緊張感があり、まるで明鏡止水のような状態でした。切なさとその場の重力みたいなものを強く感じましたね。


あのシーンで文江は涙を流しているのですが、富山さんには泣かないようにお願いしていました。前述の「世界をより深い視点で見る」人の設定だと、泣いたりしないのではないかと思っていたんです。でもあの“場”の持つ力が強かったこともあり、自然と涙が流れてしまったようです。でもそれはまさに、芝居が想像を超えてくれた瞬間でした。自分の想像したものとは違うものが撮れたのですが、とても好きなシーンになりました。





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