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『護られなかった者たちへ』瀬々敬久監督、映画と時代の相克の狭間で【Director’s Interview Vol.145】

『護られなかった者たちへ』瀬々敬久監督、映画と時代の相克の狭間で【Director’s Interview Vol.145】

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真に迫った演技を引き出すための、“助走”の確保



Q:映像面でいうと、東日本大震災直後の避難所の全景が映し出されたうえで内部に入っていく構成でしたり、がれきでしたり、画の本物感が凄まじかったです。


瀬々:当時の写真なども参考にしましたが、やはりここも実際に現地を訪れた際の経験が大きかったですね。石巻の避難所の裏山はぐちゃぐちゃで、墓もなぎ倒されていたり、校舎の中は整理されていても近辺は荒れ果てていました。2011年の8月に現地を訪れた際も、信号は止まったままで、電気が通っていませんでした。そうすると、夜が本当に真っ暗になるんですよ。


けいさんの家から利根が飛び出していく引き画のシーンがありますが、電気が一つもないような、暗闇を表現したいと思って作っていましたね。


Q:以前お話を伺った際に、「演技をするための動線を作る」作品作りについて教えていただきました。シーンの中で動きの連続を設定し、かつ“助走”を設けることで役者が入っていきやすい状況を創り出す。今回だと、歩道橋のチェイスシーンなどにそれを感じました。


瀬々:ああ、それはありますね。動きの連続性は、いつも気を付けているところです。たとえば(佐藤)健くん演じる利根が火炎瓶を持って火をつけるシーンがありますが、道を渡ってくるところから撮影しています。ただ歩道橋のシーンは、健くんが走るのが異常に速いから、手加減してくれていると思います(笑)。



『護られなかった者たちへ』©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会


Q:その佐藤さんとは『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)以来、2度目のタッグです。再び共闘してみて、いかがでしたか?


瀬々:健くんは非常にクレバーな人ですね。役者としてはもちろん、作品自体の掴み方も優れていて、かつ早い。


ただ、彼が言っていたのは『8年越しの花嫁 奇跡の実話』は非常に演じるのに苦労したと(笑)。今回の利根のほうがやりやすかったとは話していました。孤独感とか、そういったものが本人に近いのかもしれませんね。


『8年越しの花嫁 奇跡の実話』のときは待ち時間も普段の感じで過ごしていた印象でしたが、今回は緊張の糸が切れないように、現場でも周りの俳優部とはあまり話をしないようにしていた印象です。怒りや憎悪を持ち続けるために、そういう取り組み方をしていたのかもしれませんし、彼は非常に真面目な人だから、生半可にはやりたくないという覚悟を感じました。


Q:阿部寛さんもご自身で衣装を汚すなど、リアルな表現を追求していたと伺いました。


瀬々:阿部さんも非常に面白い人ですね。普段は冷静な大人なのですが、役に入り込むとどんどんのめり込んでしまう(笑)。撮影中、その辺の汚い泥水を自分の衣装につけていましたね。彼もまた、健くんと同じように自主的にそういったことを行ってくれます。




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