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『護られなかった者たちへ』瀬々敬久監督、映画と時代の相克の狭間で【Director’s Interview Vol.145】

『護られなかった者たちへ』瀬々敬久監督、映画と時代の相克の狭間で【Director’s Interview Vol.145】

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時代の切迫によって、観客が注目するポイントが変動



Q:観客の立場から言うと、本作が公開されるまでの期間に「生活保護」というトピックがより個々人にとって身近になったのも、非常に印象深い出来事です。


瀬々:ただそれは、決していいことではないですけどね……。菅首相が、コロナ禍になったときに「自助・共助・公助」と言いましたよね。これはまさしく生活保護の話なんですが、「まず身近な人が助けてください」と共助を訴えた。本来は公助→共助→自助のはずなんだけど、いまの世の中はその逆をやってくれと言う。つまりいま、「護られなかった者たち」がどんどん生まれてしまっている。


そうなってはいけない、そうしたくないためにこの作品があるのに、現実がもうそんな状態になってしまった。この映画が多くの方に響けばいいなという想いはありつつ、東日本大震災から10年経っても何も変わっていなかったとも感じています。というかいまや、もっとひどい状況になっていますよね。そこはとても複雑です。


最初、僕たちは本作をヒューマンミステリーとして作っていました。「社会問題に切り込む!」という感覚ではなく、いかにミステリーとして面白くしようか考えていたけれど、いまの時代がより社会問題のほうにハマるようになってしまった。観客の皆さんが目を向けてくれて、身につまされる部分が、そちらに動いてきたんですね。だから言ってしまえば、時代がこの映画を作ってしまったのかもしれない。



『護られなかった者たちへ』©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会


Q:非常に重いお言葉です。観客自身も、時代に左右されているといいますか……。


瀬々:ただ僕たちも同じ時代に生きていますから、社会福祉制度についてはものすごく調べて、裏撮りをして反映していきました。生活保護の申請のからくりとか、裏の手であったり、辞退届について等々……。実際に現場で働いていた方々に取材させていただいたり文献を参照して、要素を追加してきました。そうしたリアリティの積み重ねは、「ありそう」と思ってもらえる要因の一つになったかなとは思います。


職員の皆さんも矛盾を抱えながら働いている部分はあるでしょうし、それもあって永山瑛太くん、吉岡秀隆さん、緒形直人さんといった俳優陣にお願いしています。いかにも悪人という人たちではなく、社会の矛盾を背負いながら働いている彼らの大変さも描きたかった。結局、「こいつが悪い」となってしまうと個人の問題になってしまいますよね。そうではなく、社会システムそのものが問題や矛盾を抱えているわけですから。それもあって、「私たちはそういう国に住んでいるんです」というセリフを足しました。


そうした部分も含めて、この『護られなかった者たちへ』は、映画を通して政治や国、システムに目が行くようなものにはなっていますね。



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監督・脚本:瀬々敬久

1960年、大分県出身。京都大学在学中から自主映画を製作。89年『課外授業 暴行』で監督デビュー。以降、『MOON CHILD』(03)、『感染列島』(09)などの劇場映画から、ドキュメンタリー、テレビなど様々な作品を発表。『ヘヴンズ ストーリー』(10)が第61回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞とNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)の二冠を獲得、同作で芸術選奨文部科学大臣賞映画部門を受賞した。『アントキノイノチ』(11)が第35回モントリオール世界映画祭でイノベーションアワードを受賞。『64-ロクヨン-前編』(16)では第40回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。近作に『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)、『友罪』(18)、『菊とギロチン』(18)、『糸』(20)、『明日の食卓』(21)、『とんび』(22)など。



取材・文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema




『護られなかった者たちへ』

2021年10月1日(金)公開 配給:松竹

©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

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