コロナ禍のクリエイターたちを支援するために、ソニー・ピクチャーズが立ち上げた短編映画製作プロジェクト『DIVOC-12』(10月1日公開)。藤井道人・上田慎一郎・三島有紀子の元にそれぞれ3人の新鋭監督が集い、総勢12人の監督による短編が1本の映画として上映される。
藤井監督が書き下ろしたのは、ある男の記憶をたどる物語『名もなき一篇・アンナ』。恋人のアンナ(ロン・モンロウ)に誘われ、男(横浜流星)は京都や函館、沖縄といった思い出の場所を再び巡る。日本語と中国語で交わされるやり取り、幻想的な世界観、仄かに漂うテーマ性等々、作品ごとに進化し続ける藤井監督の挑戦心に満ちた力作だ。
今回は、『DIVOC-12』の制作発表からオフィシャルライターを務めてきたSYOが、脚本の変遷や撮影現場といった制作プロセスを含めて藤井監督にインタビュー。ディープな制作秘話と、藤井監督の「現場論」を紐解いてゆく。
Index
- 自分自身の「喪失」に対するラブレター
- 「これが最後でもいい」と思えない限り撮らない
- 「新しいものを見られる」と思えるから、皆が能動的になる
- バックショットは、絶妙な“余白”をもたらしてくれる
- 自分にとってのインプットは、日常をしっかり生きること
自分自身の「喪失」に対するラブレター
Q:『名もなき一篇・アンナ』、本当に素晴らしかったです。個人的に、今後もずっと大切にしていきたい作品に出会えた気持ちです。
藤井:嬉しいです……。ありがとうございます!
Q:しかし、3日間で撮影されたとは思えないほどの完成度ですね。
藤井:いやぁ、今回は無茶しましたね(笑)。
Q:(笑)。脚本段階で、ビジュアルイメージはどれくらい浮かんでいたんでしょう?
藤井:浮かんでいるところとそうじゃないところが結構はっきり分かれていましたね。京都は自分の中で明確なイメージがありましたが、函館や沖縄は行ったことがなかったんです。ロケハンをしながら、撮りながら見つけていった形ですね。
『DIVOC-12』© 2021 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.
Q:函館の赤レンガのシーンは、撮りながら見つけたと伺いました。
藤井:そうです。あれも、現地で「いいな」と思い追加しました。そうしたエピソード含め、本当に“旅”をしながら撮影していきましたね。
Q:脚本が完成するまでにも、紆余曲折あったと聞いています。どれくらいの期間で書き上げたのでしょう?
藤井:元々やりたかった企画は、日本と台湾を舞台にした短編だったんです。自分のルーツである台湾と東京のふたつの街で撮影したかったのですが、コロナ禍で台湾に行けなくなってしまった。そこで物語を考え直すことにして、自分が「喪失」したことに対するラブレターを書いたんです。そう考えると、期間自体は結構かかっていますね。
Q:脚本を拝読しましたが、冒頭に本編にはないナレーションがありますね。
藤井:そうなんです。あの部分が出発点といいますか、こういう状況になってしまった中で、幸せだったころや良かった時の自分を思い返すような感覚で書いていきました。ただ、元々描こうとしたものからは、そこまで大きくは変わっていません。その後、(横浜)流星やロン(・モンロウ)ちゃんの出演が決まり、2人に合わせて微調整を加えていきました。