3人の名優との仕事
Q:ジョディ・フォスターという伝説的な俳優とベネディクト・カンバーバッチという新世代の名優、さらにタハール・ラヒム、三者のコラボレーションは如何でしたか。
マクドナルド: ジョディと仕事ができたのは本当に名誉なことでした。ジョディは出演する作品をかなり選んでいるので、そんな彼女が私の作品に出ると決めてくれただけでも、大きな自信につながりました。彼女は演じたキャラクター(ナンシー弁護士)と自分自身との間に何か共通するものを見出していたようです。私から見ると、表向きは硬質でクールにみえるけれども、内面はとてもソフトで繊細な感じ、そういうところが、役柄と似ていると感じました。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』© 2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ベネディクトはどんな役柄でも演じることができる本当のカメレオン役者ですよね。今回は役者としてだけではなく、原作を映画化するために、製作者として尽力したことが大きかったと思います。
モハメドゥを演じたタハールとは10年ほど前から知り合いでした。彼はモハメドゥが持つカリスマ性やユーモア、真意が読めない人間としての奥深さ、そして暗さといった要素を全て兼ね備えていました。しかも英語でそれを表現できるという、本当に彼しかいない得難い俳優でした。
本作の中で特に印象に残っているシーンが2つあります。1つ目はモハメドゥが監房から外に出された時、マルセイユという隣のエリアにいた囚人に語りかけるところです。二人は柵に隔てられていて、お互いの顔が見えません。その中で、急にモハメドゥが柵につかまるシーンがありますが、あの瞬間、そこは刑務所だけれども自由で美しい空間に変わったように感じられます。あれはタハールの演技の素晴らしさが実現したシーンでした。
もう一つが弁護士であるジョディが、モハメドゥに「これまであなたを信じてなくて申し訳なかった」、と涙を流すシーンですね。あまり感情を表に出さない役柄なので、そんな彼女が涙を流すというところが胸を打つシーンです。同時にタハールも素晴らしい演技で、隠してきた自分の脆さを垣間見せる。二人の魂が触れ合う瞬間が撮れたと思います。
監督:ケヴィン・マクドナルド
1967年10月28日イギリス/スコットランド、グラスゴー生まれ。1999年ミュンヘンオリンピック事件を扱った『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞。2003年『運命を分けたザイル』では英国アカデミー賞英国作品賞を受賞、『LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語』(11)、『ボブ・マリー/ルーツ・オブ・レジェンド』(12/英国アカデミー賞ノミネート)、『ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』(18/カンヌ国際映画祭公式セレクション)、『ペレ:レジェンド、栄光のサッカー人生』(21)など、数々の賞に輝くドキュメンタリー作品を手掛けてきた。長編映画の主な作品に、『ラスト・キング・オブ・スコットランド』(06/英国アカデミー賞英国作品賞、アカデミー主演男優賞(フォレスト・ウィテカー)を受賞)、『消されたヘッドライン』(09)、『第九軍団のワシ』(10)、『わたしは生きていける』(13)、『ブラック・シー』(14)などがある。
取材・文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』
10月29日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
© 2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.