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第34回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門 吉田恵輔監督 ゴールは “映画界の高田純次”【Director’s Interview Vol.156】

第34回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門 吉田恵輔監督 ゴールは “映画界の高田純次”【Director’s Interview Vol.156】

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商業とアートの中間を狙う



Q:いよいよちゃんと評価される時期が来たという実感はないですか?


吉田:それもないです。俺ってちょっとどっちつかずというか、いつも商業とアートの中間を狙ってるんですよ。やっぱり映画祭って、振り切ってるものが選ばれがちじゃないですか。でも俺って長回しとかしないんですけど、本当に大丈夫ですかね?(笑)


Q:商業を意識したスタンスは上映時間にも現れている気がします。例えば『空白』は1時間47分。別の人が撮ったら2時間半、3時間になってもおかしくない題材じゃないですか。


吉田:そうですね。たぶん3時間にしておけば(評価は)もっと高くなるのかも知れない(笑)。


Q:商業とアートの中間を狙うのには何か理由はありますか?


吉田:それは単純に、俺が観る側としてそういう作品が好きってだけですね。例えば塚本晋也監督は、海外で賞を獲ったりして「世界の塚本」なんて言われますけど、アートというよりは、どちらかと言うと、俺らが結構テンション高くなって観ちゃうような映画ですよね。世界で一番派手な効果音をつけたりするし(笑)。塚本監督は映画祭とかで賞を獲るようなタイプとは真逆のことをやり続けて評価され、受賞しちゃう。そこへの憧れや影響はあるかも知れないです。


Q:ただ吉田監督は、塚本監督の現場からキャリアを始めて、インディペンデントな映画作りにこだわり続けている塚本監督とは違う道を選びましたよね。いつ頃から商業映画としての映画作りを意識していたんでしょうか?


吉田:それは20代の中盤くらいからですかね。俺は塚本組にいたんですが、だんだん後輩ができてくるじゃないですか。そうすると、物を運んだりするような力仕事に疲れてきて、やっぱり後輩にやらせたくなるじゃないですか(笑)。


でも塚本監督は、自分で監督やってカメラ回して、主演もしてるんです。そこに加えて、現場で気になるところがあると、衣装のまま自分でペンキを塗りだしたりしちゃう。俺にはその体力はないなと思ったんですよね。塚本監督はスタミナが尋常じゃない。三池(崇史)さんとかも「寝てるのを見たことない」ってよく言われてる。そういうスタミナのバケモノみたいな人を近くで見て、「俺はああはなれない」ってすぐに諦めの境地に入ったんです。俺はみんなにサポートしてもらわなくちゃ映画はできないなって。


ほぼ自主で撮った「なま夏」(05)とか「メリちん」(06)の時も、俺にはムチャクチャ大変だったんです。だから、抱えていたものをとにかくひとつでも減らしたいみたいな感覚はありましたね。



吉田恵輔監督


Q:でも、塚本組では照明を担当されていましたし、誰かに任せようにもスタッフワークの技術面が気になって、手や口を出したくなったりはしませんか?


吉田:もちろんそれはそうなんだけど、逆に言うと、それだけですよ。お芝居上手い人を連れてきて、カメラマンがカット割りを考えてくれて、それで編集マンが編集しちゃったら、本当に監督って何をしてる人なんだろうって思いますもん。


Q:では、監督としてどう作品をコントロールしているんでしょうか?


吉田:俺の場合、撮影現場でもほぼ編集ありきで、それ以外に編集のしようがないっていう撮り方しかしないんです。撮影したものをただ繋げれば完成品になる。他の人たちがどうしてるかはわかんないですけど、いろいろ素材を撮っておいて、編集でどうしようかこうしようかって考えは、俺にはないですね。不要なものは撮らないし、撮影では1分でも早く終わらせて帰るっていうのに徹してるので。


Q:それを可能にするためには、すごく前段階から準備をしておくということでしょうか?


吉田:それはしていますね。あと、役者は本当に上手い人ばかり連れてくる。古田(新太)さんとかは、もう1テイク目からずっといいですから、何テイクも撮る意味がない。アイドルとかだと、何度もやってるうちにどんどん良くなってくる場合もありますけど。


Q:『机のなかみ』や『さんかく』(10)などの初期作では、演技経験が少ない人を起用して、魅力を引き出すのが見事でした。あれは最初から、結果を予想した上でキャスティングしていたんでしょうか?


吉田:どうなるかはわからないですけど、ポテンシャルだけは絶対ある人たちだと思って起用してますね。お芝居は見たことがなくても、普段バラエティ番組とかで喋ってる姿を見て、この喋りグセは映画では結構生々しくなって良さそうだとか、自分でもそういうのを見抜く力はある気はします。


ただ、いざお芝居となると、いつもの感じじゃなくなっちゃう可能性もある。そこは賭けですよね。でも人間って、大勢の人に囲まれながらやれって言われたら緊張して萎縮しちゃうけど、仲良くなって居酒屋で飲みながらフザケあってる時なら、ポテンシャルをいくらでも発揮できるじゃないですか。現場の空気をそれくらいのノリにして、楽しくさせて緊張感をなくすっていうのはよくやってました。




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