現場で変わっていった脚本
Q:監督のオファーを受けられたとき、どう思われましたか?
柿本:今回の話を頂いた時、この映画のどこに共感してもらうか、観た人が映画館を出た時に何を持ち帰ってもらえるか、この二つについて考えました。この作品はいわゆる(高校生くらいの)若者の恋愛ドラマで、人が恋する過程で成長していく物語ではあるのですが、年齢に縛られることなく大人の方へも、何か共感できるものが欲しいなと。
そこで、この「恋する寄生虫」という話において、“虫=心”として捉える設定を考えました。虫って、気持ち悪いネガティヴな印象と受けとられ、排除されてしまう対象とされたりすることもありますが、それを“心”として設定することにより、そういう“心”を持った人たちの話を作ることができる。それであれば、そこには共感できると思ったんです。
体や理屈でわかっていても、“虫=心”は言うことを聞かず違う感情を持ち始める。そういう心と体の関係性や行動も描こうとしました。
『恋する寄生虫』©2021「恋する寄生虫」製作委員会
Q:まさに、その心と体の関係性を、林遣都さんと小松菜奈さんが繊細に演じられていて、今回の設定により説得力を持たせていたように感じました。演技に関しては、どのような話をされたのでしょうか。
柿本:特に演技指導はしていません。ただ二人とは、「今このキャラクターは、どういう気持ちなんだろう」とよく話し合いました。二人から提案されたことも多くて「この状況だとこういうセリフは言えないかもしれない」と相談され、「では、こういう言い方だと自然かな」と、現場で柔軟に変えていったりしました。本当はやってはいけないことかもしれませんが、元の脚本からは結構内容が変わりましたね。
Q:セリフだけではなくて、内容も変わっていったと。
柿本:そもそもの話が変わるレベルで内容が変わっていますね。こんなに変えると、脚本家の方に怒られるんじゃないかなと思って撮影していました(苦笑)。キャラクターも最初の設定からかなり変わりました。佐薙を天邪鬼なキャラクターにしたのは、実は自分の性格を反映した部分もあるんです。ロマンチックになりそうな場面でも「ダサいこと言ってんじゃないよ」と言ってしまったり、鼻血が出ちゃったり。「これ以上やるとクサくなり過ぎるな」というときに、必ずブラックユーモアみたいなことを差し込みました。胸キュンだけで押して行く恋愛ドラマとは差別化したいという自分の意思が、佐薙に反映されていると思います。
また、今の若い子たちを意識して、ちょっと早めのテンポで全体を構成しています。「リアルではこうだろうな」とは思いつつも、観客の気持ちを置いて行くくらいのテンポで、駆け足で話を展開させました。ゆったりした“間”があって、そこから何かを感じていくタイプの映画が個人的には好きなのですが、今回はそうではないと考えて、映画の最初3分で全ての人物像を説明していたりと、テンポ感は結構重視しました。