CM/MVの世界で圧倒的なクオリティの映像を生み出してきた柿本ケンサク監督。そんな柿本監督が今回手がけた映画『恋する寄生虫』は、極度の潔癖性の男と視線恐怖症の少女が、“虫”によって惹かれ合ってしまう異色のラブストーリーだ。これまで培ってきたビジュアルセンスはあえて抑制しつつ、人物の成長譚に重きを置いたという柿本監督だが、この『恋する寄生虫』の世界をどのように構築していったのか? 話を伺った。
『恋する寄生虫』あらすじ
極度の潔癖症で人と関わることができずに生きてきた青年・高坂賢吾(林遣都)。ある日、見知らぬ男から視線恐怖症で不登校の高校生・佐薙(さなぎ)ひじり(小松菜奈)と友だちになって面倒をみてほしい、という奇妙な依頼を受ける。露悪的な態度をとる佐薙に辟易していた高坂だったが、それが自分の弱さを隠すためだと気づき共感を抱くようになる。世界の終わりを願っていたはずの孤独な2人はやがて惹かれ合い、恋に落ちていくが———。
Index
人物の成長を捉える難しさ
Q:これまで数多くのCMやMVの監督を務められていますが、長編商業映画を監督・制作する際、CMやMVと大きく違うと感じることはありますか?
柿本:映像制作というジャンルの中で例えていうと、CMが100メートル走だとすると、映画はマラソン。これは撮影期間や尺の話ではなく、全く別という意味なんです。あまりに違い過ぎて、映像という同じジャンルだとすら思えなかったですね。
CMでは感情の変化を表現するようなことは極めて少ないですが、映画の場合は人物が成長し変化していくことを捉える必要がある。今回の映画では、主人公の二人が少しずつ惹かれ合っていくのですが、気持ちと行動が全くシンクロしない性格の二人だったので、その惹かれていく感じを表現するのが非常に難しかった。二人をそれぞれ演じた林遣都くんと小松菜奈ちゃんとも相談しながら撮影を進めました。
『恋する寄生虫』©2021「恋する寄生虫」製作委員会
この辺の話は映画作りとしては当たり前のことなのですが、自分自身、長編を撮るのがかなり久しぶりだったので、なかなか大変でしたね。
Q:前作からはどれくらいの時間が経っていたのでしょうか。
柿本:窪塚洋介さんと一緒にやった『UGLY』は2011年の作品でした。その映画では、ある男がフランスに行っていろんな事件が起こるので、変化の過程が分かりやすかったのですが、今回は大きな事件があまり起こらない。しかも撮影の順番は、脚本通りに撮れるわけではなく、完全にバラバラ。たとえば、シーン1を撮ったら次はシーン60、みたいな流れで撮影が進むので、人物の繊細な変化を捉えることがとても難しい。これまでCMやMVで培ってきた経験や武器をあまり活かせないこともあって、色々と苦しかったです。